第11話
「これから、どこへ?」
調整を終え、エンジンのかかったバイクは、周囲に激しく重低音を響かせているので、二人は負けじと声を張り上げる。
「私たちを、助けてくれるんでしょう、ノーマン?」
「はい、それはもちろん、約束しましたから。」
「一緒に来てほしい場所があるの。後ろ、乗って。」
スカートをふわりと靡かせバイクにまたがると、親指で自身の後ろを指して見せる。 ノーマンは、そんなスカートで運転できるのかと疑問に思ったが、自分も同じようにひらひら靡く袈裟を着ているので、お互い様だった。
「バイクスーツ、必要?ああ、ブーツもいるかしら?」
お互いの服装と、素足に草鞋の足元を気にしたノーマンをからかうように、イブがわざとらしい声音で尋ねるので、ノーマンは不敵なきもちになった。 舐めてもらっては困る。
こちらは生きるための手段を、他者に委ねる修行を積んできた。
全て用意してもらわないといけない温室育ちとは、ちがうのだ。
「問題ありません。」
ノーマンは慣れていると言いたげに、軽快にイブの後ろに飛び乗ると、片手でバイク後部のグラブバーを掴む。
大道寺祖廟にいた頃、若い衆の心情を知るために、ノーマンもバイクを嗜んだ事があるので、二人乗りの心得は持ち合わせていた。
「オッケー、ノーマン。しっかりつかまって。」
イブは大きなゴーグルを装着すると、エンジンをふかした。
見慣れない景色が高速で流れていく。
狭い島国とは違う、どこまでも続いてそうな土地がまぶしい。
イブは、昨日走り抜けてきたガルボランの街とは違う方向にバイクを走らせている。 進行方向はNCLの中心部らしく、これでもかと超高層ビルが立ち並んでいて、やがて空が見えなくなった。
まるで空中都市のように空が建物で覆われているのだが、至る所に電灯やネオンがギラギラ光っているので、暗さは感じられない。
沢山の人が行きかう街中で、有人のバイク専用駐車場に入ると、顔見知りらしい駐車場のおじさんに電子マネーで料金を支払った。
「じゃあ、よろしくね。」
「ああ、イブ。良い一日を。」
バイクを下りたノーマンが着崩れた袈裟を直していると「割高だけど、有人駐車場が安心だから」とイブがつぶやく。
やはり大都会というだけあって、治安もそれなりに悪い。
昨日までいたガルボランの街とは違い、観光地感は薄く、地元の人間たちでにぎわっているようだ。
そこらかしこの道端で、物乞いが小銭をせびっているし、爆音を響かせる車やバイクがひっきりなしに走り、テーザーガンと警棒を見せびらかすように歩く警察の姿も、良く見える。
「イブ、どこへ?」
「役所よ。」
「役所?」
「そう、ここ、ネムレスの中心街、オルドの役所。」
NLCは5つの街から成っている。
東の観光地[ガルボラン]、北のスラム街[ショワン]
西のオフィス街[ブロンガー]、南の僻地[イニクス]
そして東西南北の街に囲まれた中心街、[オルド]の5つだ。
ノーマンが、先日エイダと出会った最初の公園は、ガルボランの市街庁舎に付随する公園だった。
「オルドの役所に、いったい何の用事が?」
「・・・ねぇノーマン。今からいう事、信じてくれる?」
イブは立ち止まると、建物の隙間にひっそりと建つ自動販売機とベンチを見つけ、隠れるように滑り込み、ノーマンも隣に座るよう手招きした。
「ええ、もちろん信じますよ。」答えながら隣に座る。
「私と、エイダはね・・・。」
「はい。」
「ネムレスの第一市長、ジョン・ドゥの子孫なの。」




