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J.NOMANの手記  作者: 祇膳
秘密
10/18

第10話

 モーテルに赤い夕陽が差し込んでくる。 まもなく日没だ。

 ガルボランの中心地から少し離れただけなのに、ここはひどく寂れており、周辺にいるのは顔を隠し歩く訳ありと、ホームレスに、ギャングといった治安のよくない輩ばかりだ。

 年端もいかない少女に似つかわしくない場所。

 聞きたいことは沢山あるのだが、触れてはいけない地雷もあるような気がして、ノーマンは何も言えずにいた。

 「ねぇ、ノーマン。」日没前の沈黙を、エイダが破る。

 「エイダは、あなたに何て言ったのかしら?」

 「僧侶は、人を救うのが仕事か、と。」

 「それで、なんて答えたの?」

 「拙僧ごときが人を救うなど、おこがましいこと。拙僧は、人が救われるお手伝いをするまで、と。」

 「・・・エイダは、救われたいといったの?」

 「はい、助けてほしいと。ですので拙僧は、できる限りの事をお手伝いしますと約束しました。」

 「そう。それは、まだ有効?」

 イブは背中に日没前の夕日を背負ってノーマンの前に立つ。

 逆光でイブの顔に影が差して、表情がよく見えない。

 「私と、エイダをたすけて。」

 「もちろんです、イブ。」

 

 あれからすぐに日が暮れて、モーテルの蛍光灯はぼんやり灯るだけで頼りなく、疲れた体が悲鳴をあげていたので、二人は気絶するように眠りに落ちた。 一応男女ではあるが、腐っても僧侶であるノーマンが少女をどうこうする思いは微塵もなく、イブもノーマンを信頼したようで、すっかり熟睡していた。

 明け方に数台の改造車がモーテルの前を通過すると、その爆音の洗礼をうけたノーマンが目を覚ます。 イブが見当たらない。

 慌てて外に出ると、モーテルの駐車場で大きなバイクをいじっているイブがいた。


 「おはよう。よく眠れた?」

 「はい。おかげさまで。それは?」

 「私の愛車。」

 イブは得意げな笑顔を向けると、愛しそうにバイクのボディからシートまで、指先でそっと撫でた。

 深い藍色をベースにしたボディは色合いが美しく、大きなタイヤと大きなマフラーが印象的だった。 イブよりはるかに重そうで、女性にはとても扱えなさそうなほどに、大きい。

 イブはバイクの全てを知っている風で、細かい調整を行っているようだった。 イブのはめた皮手袋は年季が入って真っ黒だ。

 ふと気になってイブの足元を見ると、黒いブーツを履いている。

 「ああ、これ?」と、ノーマンの視線に気が付いたイブが片足を上げて見せる。

 「あなたが昨日めちゃくちゃに走るから、折れちゃったのよ、ピンヒール。お気に入りだったのに。」

 「あ!そ、それは申し訳ない。」

 昨日は公園の男たちから逃げる事に必死で、気が付かなかった。 

 ヒールを履いた女性だという事を、もっと気にしておくべきだったとノーマンは猛省する。 「いつか弁償を」と深刻なノーマンの表情に、イブが思わず吹き出し、笑い転げた。

 「いいのよ!ヒールなんてたまにしか履かないし、それに、昨日のあいつらの顔ったら・・・おかしかったわ!街の人たちもよ!」

 「え?」

 「まさか坊主がビールをぶっかけるなんて、誰が思うのよ?」

 「あ・・・。」

 「しかも女の子と手を取り合って街を駆け抜けるなんて、まるでリアリティーショーみたいじゃない!」

 「は、はぁ。ええと、申し訳ない・・・?」

 「あなたってドラマチックな坊主なのね、ノーマン!」

 イブは思い出し笑いが止まらず、楽し気にノーマンの肩をぱしぱしと叩く。 褒められているのか分からないノーマンは苦笑した。

 

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