第1話
過去は一瞬で、未来は遠く、現在は永遠だ。
そんな風に人生を格好つけて思い始めたのは、いつだっただろうか? それも、頭の中で思うだけで実感などしていなかったが。
私は、誰も選ばない道を選ぶ勇者でありたかった。
「井の中の蛙」だった過去の愚かな私を叱ってやりたい。
私は、あの欲望うず巻く街では、勇者にも愚者にもなれないのだから、決して思い上がるな、と。
今日はスモッグが少なく、青い空が広がっていた。
西暦3000年になろうという世界で、青い空は有難いらしく、普段は家からあまり出ない人たちも、この日ばかりは外に出て、雄大で新鮮な空を眺め、楽しんでいた。
そんな世界で、道行く人に爽やかに挨拶を交わす人がいた。
髪をすっかりそり落とし、ぼろの布を左肩からかけただけの簡素な袈裟を身にまとうその人は、そこそこ位の高い僧侶らしく、誰もがうやうやしく声をかけていく。
「慈詠様、こちらにおられましたか。」
慈詠と呼ばれたその人の手には、ほうきが握られており、通行人に挨拶をしながら忙しく動いている。
その様子を見て「おやめください。私がやりますので。」と慈詠からほうきを乱暴に奪い取ったのは、弟子の佳院だ。
「佳院、今日はいい天気ですよ。」だからイライラしないで空を見上げてごらんなさい、と、すっと空を指さす。
つられて佳院は空を見上げるが、その眉間にはしわが寄ったままだ。
「今日は、あなた様の留学先が決まる大事な日です。」
「わかっていますよ。ですが、まだ時間がありますし・・・」
「わかっておりません。」
「・・・さて、私は何をわかっていないのかな?」
まるで駄々をこねるような愛弟子のしぐさに、慈詠は困ったように微笑んで見せた。 その下がった眉が心をほぐす。




