第4話 世界の修正力と、二つの誓い
布告を出した翌朝。
王城の空は晴れているのに、私の胸の奥はざわついていた。
――世界の修正力。昨夜、公爵邸からの帰り際に見えた“空のひび割れ”は、忘れようにも忘れられない。
もしあれが本当に“世界の補正”なら、この先どんな反撃が待っているのか。
だが、怯えている暇はない。私は「推しを救う」と決めたのだ。
公爵派の反撃
広場での布告から一夜。
王城には、もう新しい噂が広まっていた。
――「王子は婚約者に操られている」
――「リリアナは妖術で殿下を惑わせた」
下手な芝居だ。だが、民衆は面白おかしく尾ひれをつけて囁く。
私は侍従から報告を受け、眉をひそめた。
「……公爵派、動きが早すぎる」
そこへ、リリアナが控えめに入室してきた。
「殿下……わたくしのせいで、国中が騒ぎに……」
「違う。君のせいじゃない。これは彼らが最初から狙っていたことだ」
リリアナは唇を噛んだ。
「でも、もし……殿下が傷つけられたら……」
「なら、守ってみせる。君の声を奪わせないために」
私は彼女の手を取った。
――原作では、婚約者に冷たく当たるラスボス王子。
でも今は違う。彼女を支えることで、シナリオそのものを書き換えている。
推しとの誓い
その日の午後、私は訓練場にいた。
アレンは剣を振るい、昨日教えた“目で呼吸する”を実践していた。
彼の剣筋は、目に見えて鋭さを増している。
「よし、そこまで!」
私は拍手を送った。
アレンは息を切らしながらも、誇らしげに笑った。
「殿下の教えは、本当に不思議です。体が軽くなるようで……」
私は木剣を肩に担ぎ、彼を見つめた。
「アレン。これから、もっと大きな戦いが来る。君に頼みたい」
「……俺に、ですか?」
「君は主人公だ。本来なら、私を討つ役目だった。けれど――私は討たれたくないし、君にそんな未来を背負わせたくない」
アレンの目が揺れる。
「殿下……?」
「だから誓おう。私は君を支える。君が王国を救う力を得るまで、どんな修正力が来ても、世界を敵に回してでも支える」
私の言葉に、アレンは真剣な眼差しを返してきた。
「……俺も誓います。殿下を一人にはしない。たとえ全世界が敵に回っても」
その瞬間、胸の奥に熱が走った。
――筋書きが、さらに狂った。
本来なら敵対する二人が、誓いを交わして味方になったのだから。
世界の修正力、顕現
夜。
私は自室で執務をしていた。
ふと窓の外を見ると、空の一角がまた滲んでいる。まるで水面に投げ込まれた石が波紋を広げるように。
「……来るか」
次の瞬間、窓ガラスがひび割れ、冷たい風とともに“黒い霧”が流れ込んできた。
――これは、ゲームには存在しなかった現象。
まるで世界そのものが、私を悪役に戻すために送り込んできた怪物のようだ。
「殿下!」
扉を破って入ってきたのは、アレンとリリアナ。
アレンは剣を抜き、霧に切りかかる。だが斬撃は空を裂くだけで、霧は形を変えて絡みつく。
私は魔力を解放し、炎を放った。
「燃えろ……!」
炎は霧を弾き飛ばすが、すぐに再生する。
「くそ……これは、“存在修正”か……!?」
世界が作り出したバグ的存在。私をラスボスに戻すため、力を暴走させる罠。
リリアナが震えながらも、前に出た。
「殿下! わたくしに……できることは!」
「歌え!」
「えっ!?」
「君の声は、黙らせるな。君が声を上げれば、それが修正への抵抗になる!」
リリアナは一瞬迷ったが、すぐに歌を紡ぎ始めた。
柔らかく澄んだ歌声が、部屋を満たしていく。
霧がわずかに後退した。
「効いてる……!」
アレンが叫び、剣を振る。私も魔力を重ねる。
三人の力が交わり、ついに霧は悲鳴のような音を立てて消え去った。
――勝った。
だが、背筋に冷たい汗が流れる。
これはほんの序章にすぎない。
世界は確実に、私たちを“元の筋書き”に戻そうとしている。
それでも
戦いのあと。
私は二人を見渡した。
リリアナはまだ歌の余韻に震え、アレンは剣を握ったまま、真剣な瞳でこちらを見ている。
「ありがとう。……君たちがいたから、私は抗えた」
私は深く息を吸い、胸の奥で再び誓った。
――推しを救う。
そのために、世界を敵に回す覚悟を固める。
物語は、もはや完全に狂い始めている。
だが、この狂気こそが、私たちのハッピーエンドへの道標だ。




