第84章 — 女王の咆哮
1560人のアルファ・ウェアウルフたちは、一斉に突撃した。獣の海が咆哮と共に押し寄せ、喰らい尽くそうとしていた。
カエリラは空気を裂くような叫び声を放った。その声には怒り、感情、そして潜在的な力が詰め込まれていた。
飛びかかる爪、振り下ろされる拳――そのすべてを、彼女は音を超える速度でかわしていく。稲妻のように、姿が霞む。腕も脚も、ただの残像だった。
一体のアルファが正面から突進してきた。咆哮と共に迫るその巨体を、カエリラは片手で掴み、無造作に投げ飛ばした。
その体は他のウェアウルフたちにぶつかり、完璧なドミノ倒しのように十数体を巻き込んで崩れ落ちた。
さらに別の群れが同時に襲いかかる。低く滑り込み、連携を組んだ攻撃。だがカエリラは跳び上がり、宙で旋回し、稲妻のように着地した。
風が爆ぜ、衝撃波が走る。彼女の動きは芸術だった――計算され尽くした狂気の舞。
数百のアルファが同時に襲いかかる。速度と力の融合。
しかし、カエリラは笑った。
その笑みは刃のように鋭く、母アシナを思わせる残酷な美しさを宿していた。
耳を裂く叫びと共に、風の爆発が解き放たれる。嵐の一撃が数十体を吹き飛ばした。
それでも彼らは立ち上がる。吠え、再び突撃した。怒りの獣たちはまだ諦めていなかった。
カエリラは両腕を高く掲げた。
そして――大地を叩きつける。
その衝撃音は古の鐘のように響き渡り、惑星全体を震わせた。
地面が裂け、現実そのものが歪む。無数のウェアウルフが宙に投げ出され、衝撃波が夜空を貫いた。
次の瞬間、時間が止まった。
風も、音も、世界も凍りつく。
その静寂の中、カエリラは光の彗星となり、戦場を駆け抜けた。
わずか一瞬――彼女は1560人すべてのアルファを撃ち抜いた。
そして指を軽く動かす。
「――戻れ。」
時が再び流れ出す。
直後、地鳴りのような轟音が爆ぜ、大地が震えた。
砂塵が舞い上がり、鳥たちが一斉に飛び立つ。
倒れたウェアウルフたちは呻き声を上げた。生きてはいたが、その皮膚は焼け、魂は恐怖に震えていた。
アルファ・ウェアウルフ15号(震えながら): 「な、なんだこれは…っ! これはただの雌狼じゃない…破壊そのものだ!」
カエリラは笑った。
その笑い声は悪魔のようで、神聖でもあった。
両腕を広げ、咆哮を放つ。
その声は獣と亡霊の混じった音――狂気と威厳の咆哮。
彼女のオーラは爆発し、地球の果てまで響いた。
それは、新たな時代の幕開けを告げる信号だった。
遠く離れた地――巨大な王座の間。
ひとりのロードがその咆哮を聞き、ゆっくりと立ち上がった。
彼の赤い瞳が歓喜に輝く。
ロード(微笑みながら): 「ほう…ついに目覚めたか。進化の血脈が、再び動き出した。」
彼は脚を組み、笑みを深め、従者たちを呼んだ。
従者1:「はい、ロード様。」
従者2:「ご命令を。」
ロード: 「カエリラの元へ向かえ。そして――人間を二人、生きたまま連れてこい。
彼女の力の“到達範囲”を、確かめたい。」
従者たちは頷き、瞬時に空を駆け抜けた。
大陸を越え、戦場へと向かう。
その頃、カエリラは戦場の中心に立っていた。
周囲には倒れ伏すアルファたち。
彼らは震え、やがて一人、また一人と膝をついた。
ついに全員が頭を垂れた――
“絶対なる女王”の前に。
カエリラはゆっくりと身をかがめ、両手の爪を地に突き立てる。
半分人、半分獣。力と怒りの象徴。
それが今の彼女だった。
最後の咆哮が夜空を貫く。
それは宣言だった。
――新しき時代、カエリラの時代が始まった。
そして、誰も彼女を止めることはできない。
次回へ続く…




