第五話 初めてのTOEIC
数週間後、俺はTOEICの受験会場へとやってきた――。
大学入学まであと一ヶ月。
俺は、大学のクラス分け試験の前に、一度、TOEICを受けてみることにした。
「本番の試験は慣れが大事」
大学受験でもそうだったように、事前に試験形式に慣れておけば、本番で余計な動揺をせずに済む。
それに、今の自分の実力を知っておきたいという気持ちもあった。
試験の部屋に入り、指定された席に着く。
試験時間は二時間。
俺は深呼吸し、開始の合図を待った。
最初のリスニングセクションが始まる。
(よし、集中しろ……!)
試験会場に流れる英語に耳を澄ませる。
最初の写真描写問題は、そこまで難しくない。
次の応答問題も、シンプルなやり取りなら理解できる。
(……意外と聞き取れるかも)
毎日海外ドラマを何時間も聞いていたおかげで、TOEICのリスニングは少しだけゆっくりに聞こえる。
だが、会話問題や説明文問題に入ると、一気に難しくなった。
(え、今の単語……あれっ……)
聞き取りに必死で、問題文を読んでいる余裕があまりない――そう実感した。
リスニングが終わり、次はリーディングセクション。制限時間は75分。
(ここからは時間との勝負だ)
そう気合を入れて問題を解き始める。
短文穴埋めは、比較的スムーズに解ける。
大学受験で文法はしっかり勉強したから、文法問題にはそこまで苦戦しない。
だが、長文穴埋めや長文読解に入ると、一気にペースが落ちた。
(……やばい、時間が足りない)
問題を解くスピードが遅い。
英語そのものは読めるのに、内容を理解しながら解答するのに想像以上に時間がかかる。
時計を見ると、残り10分。
(あと10問……!)
焦りながら問題を解くが、時間切れ。
「最後まで解けなかった」
試験終了――。
席に座ったまま、俺は軽く息を吐いた。
「……くそ、解ききれなかった」
リスニングは思ったよりできた。
でも、リーディングは時間内に解き終える訓練が必要だ。
(やるべきことは、まだまだある)
でも、課題が明確になったのは収穫だ。
「次は、制限時間を意識して解く練習をしよう」
俺はそう心に決め、会場を後にした。