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偏差値45からオックスフォード大学に進学した話  作者: 希羽
第一章 留学準備編

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第四十七話 打ち上げ

 時は流れ、秋学期も、もう終わりの足音が聞こえ始めていた。


 その日の昼下がり、俺は大学のカフェで、いつものようにエミリーとのランゲージ・エクスチェンジの時間を過ごしていた。


 外の寒さとは裏腹に、暖かいカフェの中では活発な議論が交わされている。今日のテーマは「ソーシャルメディアが社会に与える影響」についてだ。


「I think platforms like Twitter can be great for spreading information quickly, especially during emergencies.(Twitterみたいなプラットフォームは、特に緊急時に情報を素早く広めるのにすごく役立つと思うんだ)」


 俺がそう切り出すと、エミリーはコーヒーカップを置き、少し考えてから応じた。


「That's true, but the spread of misinformation is a huge problem too, isn't it? It's hard to know what's real.(それはそうだけど、誤情報が広まるのも大きな問題じゃない? 何が本当か見分けるのが難しいわ)」


「Yeah, that's the downside... Maybe more regulation is needed?(ああ、それが欠点だよね……もっと規制が必要なのかな?)」


「Regulation is tricky, though. It could lead to censorship...(でも規制は難しい問題よ。検閲につながる可能性もあるし……)」


 エミリーとのディスカッションは、最初の頃と比べると格段に進歩していた。


 当初は、彼女のネイティブスピードの英語と、次々と繰り出される論点についていくだけで精一杯だった。けれど、何度も議論を重ねるうちに、一つの大きな気づきがあった。


 ――日本語でも自分の意見を明確に持てなければ、それを英語で表現できるはずがない。


 それからは、事前にテーマについて様々な角度から情報をインプットし、それに対する自分の考え、賛成意見、反対意見、そしてその根拠をしっかりと練り上げることを習慣にした。


 その準備のおかげで、以前よりもずっとスムーズに、そして自信を持って議論に参加できるようになったのだ。英語力だけでなく、物事を深く考える力も鍛えられている実感があった。


 白熱した議論はあっという間に予定の1時間を過ぎ、エミリーが時計を見て言った。


「Okay, time's up! Good talk today, Shun! You're getting really good at arguing your points.(よし、時間だ! 今日もいい議論だったね、駿! 自分の論点を主張するのがすごく上手くなってるわ)」


「Thanks, Emily. You too. Your counterarguments always make me think.(ありがとう、エミリー。そちらもね。君の反論はいつも考えさせられるよ)」


 お互いの健闘を称え合う。そして、エミリーがにこりと笑って付け加えた。


「See you tonight, then?(じゃあ、また今夜ね?)」


「Yeah, looking forward to it.(うん、楽しみにしてるよ)」


 俺は頷いた。今日は夜、エミリーをはじめ、ランゲージ・エクスチェンジ・プログラムに参加している他の留学生や日本人学生たちと、学期末の打ち上げを兼ねた飲み会に行く約束をしていたのだ。


 エミリーとはセッションを重ねるうちにすっかり打ち解け、今では良き友人となっていた。



 ◇◇◇



 夜になり、俺はコートの襟を立てて、指定された駅前の多国籍料理店へと向かった。ドアを開けると、陽気な音楽と様々な言語の話し声が混ざり合った、活気のある空間が広がっていた。


 奥のテーブルには、既にエミリーや、プログラムで顔見知りになった数名の留学生たちが集まって、賑やかに談笑している。


 アメリカ出身の陽気なトム、ドイツから来た真面目そうなアンナ、韓国の交換留学生のジス、中国からのリンさん……。


 国籍も年齢も様々だ。


「Hey, Shun! Over here!(やあ、駿! こっちだよ!)」


 エミリーが俺を見つけて手を振る。俺も軽く手を挙げて応え、空いている席に座った。


「お疲れ、駿くん」


 隣には、同じくプログラムに参加している日本人の先輩もいた。


 ビールやソフトドリンクで乾杯すると、テーブルはさらに賑やかになった。


 会話は基本的に英語が共通語となっているが、時折、トムがドイツ語でアンナに何かを尋ねたり、ジスがリンさんと韓国語と中国語を交えて笑い合ったりしている。知らない言語の響きが、なんだか心地よい。


 俺も、最初は少し緊張したが、エミリーが他のメンバーに俺を紹介してくれたり、トムが「日本の大学生活ってどんな感じ?」と気さくに話しかけてくれたりするうちに、自然と会話の輪に入っていくことができた。


 それぞれの国の文化や習慣、大学での専攻、将来の夢……話題は尽きない。


 多様なバックグラウンドを持つ人々と、一つのテーブルを囲んで語り合う。様々な言語が自然に飛び交うこの空間。


 ふと、俺は思った。


(来年、俺が行くロンドンも、きっとこんな感じなんだろうな……)


 世界中から人々が集まり、多様な文化と言語が混ざり合い、刺激し合う街。その光景を想像すると、漠然とした留学への不安よりも、胸が躍るような大きな期待感が込み上げてきた。


 飲み会が盛り上がる中、俺はジョッキを片手に、周りの陽気な喧騒を心地よく感じていた。


 数ヶ月前、ただ黙々と英語の勉強だけをしていた頃には、想像もできなかった光景だ。エミリーとの出会い、そしてこの交流が、俺の世界を少しずつ、でも確実に広げてくれている。


 半年後には、隼田先輩との約束もある。ロンドンでの生活、そしてその先の大学院への道。やるべきことは山積みで、決して楽な道のりではないだろう。


 けれど、その道のりは決して孤独で暗いものではない。そう確信しながら、俺は隣で楽しそうに笑うエミリーに、自然と笑顔を向け返していた。

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