第四十一話 ディスカッション
今日は、週に一度のエミリーとのランゲージ・エクスチェンジの時間。
最初は日常会話や互いの趣味の話が中心だったが、回数を重ねるうちに、少しずつ込み入った話題にも挑戦するようになった。
今日はたまたまニュースで見た環境問題について話すことになった。
「I think renewable energy is important, but the cost is still high...(再生可能エネルギーは重要だと思うけど、コストがまだ高いよね……)」
俺がそう切り出すと、エミリーは少し考えてから反論してきた。
「But the long-term cost of not investing is much higher, considering climate change, don't you think?(でも、投資しないことによる長期的なコストの方が、気候変動を考えたらずっと高いと思わない?)」
「Well, yes, but how can developing countries afford the initial investment?(うーん、そうだね、でも発展途上国はどうやって初期投資を賄えるんだろう?)」
「That's a fair point. Maybe international cooperation and technology transfer are required...(それはもっともな指摘ね。たぶん国際協力とか技術移転が必要なのかも……)」
議論は白熱し、俺は必死に自分の意見を英語で組み立てようとした。以前より言葉は出てくる。
しかし、自分の主張の根拠を具体的に示したり、エミリーの意見の論理的な穴を突いたりする段になると、途端に言葉に詰まる。適切な語彙が思い浮かばず、「ええと……」「つまり……」と同じような言葉を繰り返してしまう。
(くそっ……ただ話せるだけじゃダメなんだ……!)
議論を終えた後、エミリーは「Good discussion, Shun! Your English is improving a lot!(いい議論だったよ、駿! 英語、すごく上達してる!)」と励ましてくれたが、俺の中には悔しさと課題感がはっきりと残っていた。
自分の意見を持ち、それを論理的に、説得力を持って相手に伝える力。留学先で、そしてその先の大学院で求められるのは、まさにこの能力だ。
(次のステップは、これだ)
夜空を見上げながら帰り道を歩く。
留学までの時間は、刻一刻と迫っている。
やるべきことは、まだ山積みだ。それでも、一歩ずつ、確実に前に進んでいる。その実感だけが、今の俺を支えていた。




