第三十六話 満足
三浦先輩の座談会では、留学先の大学のこと、大学生活、ニューヨークならではの話など、経験者だからこそ語れる刺激的な話が聞けた。
アメリカに行くつもりはないけど、参加してよかった。
座談会が終わり、花蓮、颯太、優奈と一緒に教室を出る。すると、一番に口を開いたのは優奈だった。
「三年の秋から一年間留学に行く人、意外と多いんだね……全然知らなかった」
「まあ、留学経験者向けの就活イベントとかもあるらしいし、三年の秋からでも悪くないんじゃないか?」
颯太が優奈を慰めるように言う。
「私は一応TOEFLの勉強を始めたんだけど、まだ思うように点数が取れてなくて……再来年の春を目指そうと思ってるよ」
そう言って、花蓮は俺の方を見た。
「駿はどうするの?」
「俺は来年の秋からイギリスかな」
「来年の秋?」
「IELTSのスコアを持ってるから、もう交換留学に申し込んだんだ」
「嘘!?」
花蓮は驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔になる。
「すごいね! 学内選考に合格したら、いろいろ教えてね!」
「まあ、俺で良ければ」
そんな会話を交わし、皆と別れた後、俺は家へと向かった。
一人になると、自然と英語のニュースやポッドキャストを再生するのが習慣になっていた。
人通りの少ない道を歩くときは、英語で独り言をつぶやくこともある。
家に着くと、リラックスしながら夕食をとりつつ、英語のドラマを流す。
夜寝る前にシャワーを浴びるときも、BGM代わりに洋楽を流し、風呂の中ではその歌詞を口ずさんだり、今日覚えた単語を復習したりする。
気づけば、こうした生活をもう数カ月も続けていた。
努力というより、もはや習慣になっている。
最近の出来事を振り返ると、同じ一年生の仲間たちより、自分が一歩前に進んでいるような気がした。
けれど、俺の目標は交換留学じゃない。その先にある、イギリスの大学院進学だ。
まだまだ、ここで満足しているわけにはいかない。