第三十四話 新学期の授業
今日から新学期の授業が始まった。
春学期と同様、必修科目はAクラスだ。それなのに、クラスメイトの顔ぶれが少し違う。
どうやら入れ替えがあったらしい。
ほとんど同じメンバーだが、何人か知らない顔が教室にいる。
少人数の授業だから、少しの変化でも目立つ。
でも、春学期に仲良くなった皆と、また一緒に授業を受けられるのは嬉しい。
颯太や優奈はまだ来ていない。
教室で見慣れない顔の、黒髪ロングの女性を見かけて、思わず声をかけてみた。
「はじめまして。俺は駿。よろしく!」
彼女は少し驚いた顔をしてから、穏やかな笑みを浮かべて答えた。
「はじめまして。私は花蓮」
「今学期からAクラスだよな?」
「うん、まあね。もともとBクラスだったけど、春学期でかなり英語を頑張ったから、Aクラスに入れたみたい」
「俺も海外行ったことなくて、めっちゃ頑張ってるところ!」
「仲間だね!」
花蓮との会話が少し和やかに進んでいったその時、新しい先生が教室に入ってきた。授業が始まる合図だ。
◇◇◇
必修科目が終わり、次は選択科目。
今学期は、TOEFLとIELTSの対策に特化した授業が選べる。
交換留学のスコアはもう持っているけれど、それでもこの授業を受けたくて足を運んだ。
教室に入ると、すでにたくさんの学生が座っていた。
(みんな留学希望者だろうな。すごい人数だ……)
空いている席に座って、少し落ち着いてから先生を待つ。
日本人の男の先生が教室に入り、すぐに授業が始まった。
「はじめまして。この授業を担当します飯田です。今日は初回なので、皆さんの実力を知るために、まずは実際の問題を解いてもらいます」
先生が黒板に何かを書き始める。
「お題はこれです。40分でエッセイを書いてください。スマホの使用は禁止ですが、これはあくまで実力を知るためのもので、成績には関係ありませんのでご安心ください」
「書けた人から前に持ってきてくださいね。では、スタート」
俺はお題に沿ってエッセイを書き始めた。
書き終えた後、見直しをしても、まだ5分ほど時間が余った。
エッセイを先生に渡し、教室の後ろに戻る。どうやら、俺は一番に書き終えたようだ。
「じゃあ、終わった人はこのプリントを読んでおいてください」
渡されたプリントは、TOEFLとIELTSの概要や交換留学に関するもので、正直、俺はもう知っている内容だった。
それでも、これからの準備に役立つことがあるかもしれないと思って目を通した。
40分が過ぎ、全員が書き終わった様子。
みんながプリントを読みながら、先生がその間に全員のエッセイを確認している。
「お疲れ様でした、皆さん。プリントは読みましたか?」
「皆さんが目指しているのはおそらく交換留学だと思います。しかし、正直言うと、交換留学はかなり難しい。今日のエッセイを見ても、書き終わらなかった人もいたと思います。この授業では、TOEFLやIELTSの対策方法や実践問題の練習をしていきますが、本当に留学に行けるかどうかは皆さんの努力次第です。本気で留学を目指したい人は、ぜひ続けて受講してください」
先生の言葉は、少し重く、でも確かな励ましが込められていた。
「それでは、少し早いですが、今日はこれで終了です」
先生がそう言って、俺は席を立とうとした。
その時、先生が俺に向かって言った。
「柳駿さん、それから、滝沢由紀さん、少し残ってください」
「え?」
俺は驚き、滝沢さんと一緒に先生のところへ向かう。
他の学生たちが教室を出て行く中で、先生が口を開いた。
「君たち、どこか留学に行ってたの?」
「いえ、まだ行ったことはありません」
滝沢さんが答えた。
「君は?」
先生が俺に目を向ける。
「いえ、まだ海外には行ったことがないです」
先生は少し考えた後、微笑んで言った。
「君たち二人なら、確実に交換留学を狙えると思います」
「え?」
俺は驚きの声を上げた。
「英語力は、エッセイを書いてもらえば大体分かります。柳さん、君のエッセイは特に素晴らしい。文法は完璧でした。間違いなく交換留学を狙えます」
「ありがとうございます」
「交換留学の枠は限られていますから、一緒に頑張りましょう」
「……はい」
「二人の行きたい留学先は?」
「私はアメリカに行きたいです」
「僕はイギリスに……というか、交換留学の学内選考にもう申し込みました」
「もう申し込んだの?」
先生が驚いたように尋ねた。
「はい。ちょっと早すぎましたかね。IELTSはまだ6.5しかなくて、もっと勉強したいと思ってます」
「一年生でIELTS6.5……すごいですね。学内選考には確実に合格すると思いますよ。結局はIELTSかTOEFLの点数で決まるので」
「そうなんですね、よかったです」
「うらやましい……私も頑張らないと」
滝沢さんが呟いた。
「勉強仲間は絶対に必要ですから。二人とも、お互いに情報交換しながら頑張るといいですよ」
俺は滝沢さんと顔を見合わせ、自然と笑顔がこぼれた。
まだ先は長いけれど、確かな一歩を踏み出した気がした。




