第三話 英語の環境づくり
「駿、受験終わったのに、何でまだ勉強してんの?」
顔を上げると、目の前に不思議そうな顔をした雅人がいた。
「四月に試験があんだよ」
「大学に入学してすぐ? なんで?」
「英語のレベルチェックらしい」
「それ、勉強しないとダメなの?」
「ダメっていうか、したいんだ」
「へ?」
「俺、今はとにかく英語が勉強したいんだ」
「……」
雅人は一瞬黙り込んだ。次の瞬間、目が潤んでいるのが見えた。
「は!? お前、なんで急に涙目!?」
「いや、だって、バスケ辞めてから、お前が何かに熱中してんの見たことなかったからさ……感動……!」
「そんなことで感動するか!?」
「するする! いやー、がんばれよ! マジで応援してるわ!」
「……おう。サンキュー」
俺は苦笑しつつ、教室でTOEICの英単語帳をめくった。
放課後――。
「駿が英語ペラペラになったら、一緒に海外旅行いこうぜ!」
「そんなんまだ先だよ」
「先? うーん。でもさ、英語がペラペラになるには、やっぱり海外に行くのが手っ取り早いんじゃないか? 毎日英語聞きまくって、喋り続けて、読むものも、書くものも、ぜーんぶ英語の日々!」
その言葉に、俺は思わず足を止めた。
「全部、英語……」
「ん? 駿? どうした?」
「雅人、お前、すげー良いこと言うじゃん」
「へ? 何が?」
「俺、ちょっと先に帰るわ!」
「え!? おい、駿!?」
困惑する雅人を置いて、俺は家へと急いだ。
自室に入り、新品のルーズリーフバインダーを取り出す。
一枚目のルーズリーフに、太字で書いた。
——英語の環境づくり——
日本にいても、英語漬けの生活にすれば、劇的に英語力を伸ばせるんじゃないか?
そう思った瞬間、胸がざわついた。
「よし、やることを整理しよう」
まず、英語の能力は「読む」「聞く」「書く」「話す」の4つ。
大学入学後すぐに受けるTOEICでは「読む」「聞く」能力が必要だから、この2つを優先的に伸ばす。
――毎日英語を聞く――
海外ドラマや映画を見る(英語以外のは封印)。
洋楽を聞く(歌詞もチェックする)。
海外のYouTubeを観る(日本語のYouTuber禁止)。
TOEICのリスニング問題を聞き流す。
英語のニュースを聞く(これはまだ難しい……)。
――毎日英語を読む――
スマホとPCの言語設定を英語に変更。
ゲームの言語設定も英語にする。
英語の本や漫画を読む。
英語のニュースを読む(これもまだ厳しそう……)。
「まずはできることからだな……」
海外ドラマなら、楽しみながら続けられそうだ。
そう思い、俺は「英語初心者におすすめの海外ドラマ」を検索。
色んなサイトを読み漁ると、どこでも「FRIENDS」というドラマが初心者向けと紹介されていた。
「へー、そんなにいいのか」
さっそく、視聴できるサイトを探し、再生してみる。
——しかし。
「いや、何言ってんのかマジでわかんねえ! 早口すぎんだろ!」
ネイティブの本気スピードに、俺の耳はついていけなかった。
「……でも、ここで諦めるわけにはいかない!」
できるようになるまで、やり続けるだけだ。