第二十七話 現実
翌朝。
目覚ましをかけずに起きたせいか、いつもより少し遅い時間だった。昨日は色々と考えすぎて夜更かししてしまったが、気分は悪くない。
ベッドからゆっくり起き上がり、軽くストレッチをしてから、靴を履いて外に出る。
朝の空気は少しひんやりとしていて心地よい。いつものように近所の公園を歩きながら、英語で独り言を始めた。
周りに人がいないのを確認しながら、ぽつぽつと単語を口にする。恥ずかしさはもうほとんどなくなった。英語を話すことは、いつの間にか日常の一部になっていた。
公園を一周して帰宅すると、早速パソコンを開く。
「オックスフォード大学……」
検索結果から公式サイトにアクセスし、大学院のコースを確認する。
「うわ……めちゃくちゃ多いな」
ページをスクロールしながら、文学、歴史、哲学、国際関係、経済……文系だけでも膨大な数のプログラムがあることに驚く。
適当に一つのコースを選び、出願要件を確認する。
「……Any subject?」
思わず二度見した。
専攻不問?
本当に?
他のコースも確認してみるが、意外にも学部での専攻を厳しく問わないものが少なくない。
もちろん、GPAは高く求められる。さらに、志望動機やエッセイの完成度、教授からの推薦状が重要な鍵となる。しかし、やはり試験ではなく書類審査が合否を左右するようだ。
一気に希望が湧く。
しかし——次の瞬間、その期待は打ち砕かれた。
英語の出願要件の欄を見て、息をのむ。
TOEFL110点、もしくはIELTS7.5。
「……110!? 無理だろ、こんなの」
先日初めて受けたTOEFLのスコアは68点。110なんて、もはや別世界の話だ。
けれど、IELTSなら……?
「7.5……いけるか?」
IELTSはまだ受けたことがないが、TOEFLより自分に合っている気がする。
もう一度、スクリーンに映る「IELTS 7.5」の文字を見つめる。
「……次はIELTSを受けてみるか」
ついでに他のイギリスの大学院のサイトも確認してみる。
いくつか見たが、ほとんどの大学の条件はTOEFL100点、IELTS7.0と書いてあった。
どうやらオックスフォードとケンブリッジだけ、英語の要求レベルが異常に高いらしい。
「とりあえずIELTS、頑張るしかないか……」
静かに決意を固めた。




