第二十三話 初めてのTOEFL
大学に入学して二ヶ月半――。
授業はクラスメイトとの交流が多く、宿題も多いが、なんだかんだ楽しい。外国人の先生たちも個性的で、授業は刺激的だ。
バイトも相変わらず続けていて、英語を教えるのは意外と楽しい。
TOEFL対策も毎日欠かさずやっている。
忙しいけれど、充実した日々を過ごしている。
中三の時、足を骨折してから、高三の春まで――。
勉強も部活も何にも打ち込めず、ただ無駄な時間を過ごしていたことを、今になって痛感する。
けれど、だからこそ、大学では後悔のない日々を送りたい。
そして、明日はいよいよ初めてのTOEFLだ。
緊張するし、TOEFLは慣れも必要だから、まずは試しに受けてみるつもりだ。
――それでも、全力で挑む。
試験当日の朝――。
目覚ましが鳴るよりも早く目が覚めた。
緊張しているのか、体が少し硬い。
ベッドから起き上がり、軽くストレッチをして体をほぐす。
朝食はバナナとヨーグルト、そしてコーヒー。重すぎず、でも集中力が続くように。
試験会場へ向かう電車の中では、イヤホンをつけて英語の音声を聞いていた。リスニング対策というより、耳を英語に慣れさせるためだ。
試験会場に到着すると、すでに何人かの受験者が受付を済ませていた。
アジア系、ヨーロッパ系、中東系――いろんな国籍の人がいる。
日本人も何人か見かけたが、誰も話しかける様子はない。
みんな、それぞれに緊張しているのだろう。
受付でパスポートを提示し、写真を撮られる。指紋認証を済ませ、試験室へ案内された。
部屋にはすでに何人かの受験者が座っていて、全員が無言で画面を見つめている。
PCの前に座ると、試験官が注意事項を説明し、ヘッドセットの調整をしてくれた。
「それでは、試験を開始してください」
画面に最初の指示が表示された。
――いよいよ、TOEFLが始まる。
画面に表示された最初のセクションはリーディングだった。
長文が表示され、質問が次々と出てくる。
分からない単語もあるが、文脈から推測しながら読み進める。回答に自信がある問題も多い。
(思ったよりいけるかも……)
そう感じながら解き進め、リーディングを終えた。
次はリスニング。
ヘッドセットを装着し、音声が流れ始める。
「The topic of today’s lecture is marine biodiversity…(今日の講義のテーマは海洋生物の多様性です)」
必死に聞き取ろうとするが、やはり難しい。
途中で聞き逃してしまう部分があり、焦る。内容が理解できない箇所も多く、答えに自信が持てないまま進んでいく。
(やっぱりリスニングはまだまだだな……)
なんとか最後まで終え、短い休憩時間に入る。
水を飲み、深呼吸する。
(次はスピーキングか……)
休憩が終わると、スピーキングテストが始まる。
「Preparation time: 15 seconds(準備時間15秒)」
テーマが表示され、すぐに考えをまとめなければならない。
頭の中で言いたいことを整理するが、時間が足りない。
マイクがオンになり、話し始める。
「I think… because… um…」
うまく言葉が出てこない。
言いたいことはあるのに、適切な単語や文が浮かばず、途切れ途切れになる。
焦るほど、さらに言葉が出てこなくなる悪循環。
(やっぱり話すのが一番難しい……)
スピーキングを終え、最後のライティングに入る。
「Write an essay on the given topic.(与えられたテーマについてエッセイを書きなさい)」
事前に練習していたテンプレートを思い出し、すぐに書き始める。
導入、本論、結論の流れで、スムーズに文章を組み立てることができた。
(これは意外と上手く書けたかもしれない)
時間も余り、見直しをして試験終了。
試験を終えた後、会場を出る。
(リーディングとライティングは手応えがあった。でも、リスニングとスピーキングは課題だな……)
特にスピーキングで、自分の言いたいことをうまく伝えられなかったことが悔しい。
英語を話す力が決定的に足りていないことを痛感する。
(もっと話す練習をしなきゃ……)
夕方の街を歩きながら、次に向けての課題を考え始めていた。