第二十話 初めてのバイト
翌週――。
授業を終え、バイト先の塾へ向かう。
先日、バイトの面接に合格し、今日が初めての授業だ。
担当するのは小学生と中学生。まずは小学生、その後に中学一年生。
同時に教えるのは一人か二人で、科目は英語のみ。
負担は少ないはずだが、初めてのバイトということで少し緊張している。
塾に到着すると、受付にいた女性スタッフに声をかけた。
「こんばんは。今日からバイトの柳です」
「あっ、柳さんね! よろしく。じゃあ、最初に先生たちを紹介するね」
案内されて、講師用の控室に向かう。
「お疲れさまでーす!」
控室にいた先生たちが、一斉に挨拶してきた。
「お、今日からの新人?」
「初日緊張するよね~。でもすぐ慣れるよ」
「柳くん、どこの大学?」
一人の先輩らしき男性が気さくに尋ねてきた。
「えっと、多分言っても知らないと思います」
その瞬間、微妙な空気が流れる。
「へぇ……」
「そっか、頑張ろうね!」
表面上は和やかなものの、どこか遠回しな反応。
(いや、隠せてないって……)
ちらりとホワイトボードの予定表を見ると、他の先生の大学名も書かれていた。
どれも聞いたことのある有名大学ばかり。
(やっぱり俺だけ無名大学か……)
とはいえ、英語ならおそらく俺が一番できる。
「じゃあ、柳さんの初授業の準備しよっか」
先輩に案内されて教室に向かう。
最初の生徒は小学生の男の子。
「こんばんは! 今日から担当する柳駿です。よろしく!」
「……こんばんは」
やや人見知りな様子だが、うなずいてくれた。
まずはこれまでの英語の授業の進み具合を聞く。
「今どこまで進んでる?」
「えっと……be動詞……のところ?」
「あ、そっか。じゃあ、これは分かる?」
ノートに「I am a student」と書くと、生徒はしばらく考えた後、ゆっくりと答えた。
「えっと……私は生徒です」
「おっ、正解!」
少しずつ表情が和らいでいくのが分かる。
その後も、be動詞の使い方を例文を交えて説明し、最後に塾指定の問題集を解いてもらった。
生徒が正解するたびに、小さくガッツポーズをする様子がなんだか可愛らしい。
(意外と楽しいかも……)
その後、中学一年生の生徒にも授業を行い、無事に初日を終えることができた。
帰り道――。
ふと、高校三年の冬、担任に言われた冷徹な言葉が頭をよぎる。
「その大学に進学しても、良い就職先につくのは難しい」
あの時、俺はただこう思った――留学にさえ行ければ、そんなの関係ない。大学なんてどこでもいい。そこで頑張れば、それでいいんだって。
でも今になって気づく。
世の中は、そんな甘い考えを容赦なく否定し続けている。