第十七話 バスケ部
翌日。
颯太に誘われて、大学のバスケサークルの練習に体験参加することになった。
体育館に入ると、すでに何人かが準備運動をしている。バスケットボールが床を弾む音が心地よく響いていた。
「お、来たな!」
颯太が軽く手を挙げ、サークルのメンバーに俺を紹介する。
「今日、体験に来た柳駿。バスケ経験者だから、いい動きすると思うよ」
「よろしくお願いします」
軽く挨拶を交わしたあと、すぐに練習が始まった。
ウォーミングアップのあと、ゲーム形式の練習に入る。
ブランクはあるが、体が自然に動く。
ドリブルでディフェンスをかわし、正確なシュートを決めるたびに、周囲から「おお!」という歓声が上がった。
「やべえ、うまくね?」
「めっちゃ動きキレてる!」
気づけば、コートの端にいた女子たちがざわついているのがわかった。
「ねえ、あの人、めっちゃ上手くない?」
「かっこいい……」
ちらっと視線を送ると、何人かがこちらを見てヒソヒソと話している。こういうのはあまり慣れていないが、悪い気はしない。
練習が終わると、サークルのメンバーたちが集まってきた。
「すげえな、お前! ぜひサークル入ってくれよ!」
「うちに来たら絶対エースだろ!」
熱心に勧誘されるが、俺は少し考えてから答えた。
「ありがたいけど、バスケ部の体験にも誘われてるから、もう少し考えさせてほしい」
「そっか……でも、絶対また来てくれよ!」
サークルのメンバーたちは少し残念そうだったが、それでも笑顔で俺を見送ってくれた。
体育館を出ると、颯太がニヤリと笑いながら肩を叩いてくる。
「駿、めっちゃモテてたぞ?」
「……うるさい」
そう言いながら、俺は空を見上げた。
翌日――。
今日はバスケ部の体験にやってきた。
体育館に入ると、すでに部員たちが練習を始めている。バスケサークルのときとは違い、どこかピリッとした空気が漂っていた。
「体験の子? よろしくな」
副キャプテンが気さくに声をかけてくれる。軽く自己紹介をして、アップを終えるとすぐに練習試合が始まった。
俺は中学時代、全国トップレベルでバスケをしていた。
だけど、高校ではバスケをやらなかったから、三年間のブランクがある。最初のランメニューは正直きつかったが、それでも体がバスケの動きを覚えていた。
試合が始まると、俺のプレーが自然と冴え始める。
ドリブルで相手を抜き、綺麗なフォームでジャンプシュートを決める。ディフェンスでも相手の動きを先読みし、カットから速攻につなげた。
部員たちがざわめき始める。
「アイツ、うまくね?」
「ブランクあるって聞いたけど、全然そんな風に見えないぞ」
試合後、副キャプテンが近づいてきた。
「お前、めちゃくちゃ動けるな。バスケ部、入らないか?」
正直、楽しかった。
サークルとは違う、本気のバスケの空気。心が少し揺れたが、俺には他にやるべきことがある。
「すみません。今、留学を考えてて、TOEFLの勉強で忙しいんです……」
「TOEFLかあ。確かに大変だよな」
そう言ったのは、キャプテンだった。俺の会話を聞いていたらしい。
「うちの大学の先輩で、TOEFL100点取った人がいるんだけど、すごい人だったよ」
「100点!?」
俺は思わず驚いた。TOEFLは120点満点だ。100点は相当なスコアだとわかる。
「うん。隼田さんって人。今年の秋からイギリスの大学院に行くらしい」
「イギリスの大学院?」
「去年、うちの大学から受験して受かったんだってさ。マンチェスターの大学院」
俺はさらに驚いた。うちの大学からイギリスの大学院に進学した人がいるなんて。
「まあ、部活も楽しいから、良かったら入部してね」
副キャプテンが笑いながら言う。
「はい。ありがとうございました」
そう一礼して、俺は体育館を後にした。
バスケ部の熱気、そしてTOEFLで100点を取った先輩の存在。
今日の体験は、俺の中にまた一つ新しい目標を生んだ気がした。