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路地裏

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 ありがとうございます。


 カクヨムもそろそろ、修正予定です。

 

 ギルドから出ると、まず、急いで市場へと向かう。バッグがあれだけ高価だと知った今では、是が非でもあのバッグは欲しい。そして、先ほどの店の前にたどり着くと、すぐさま、店主のおじさんに話しかけられる。


「おおっ! 待ってたよ! バッグだったよな! ちゃんと取って置いてあるぞ! え~と……これだったかな」


 そう言いながらも、思いっきり一番前に商品として陳列してあったバッグを、何の悪気もなく渡そうとしてくるおじさんに戸惑いながらも大銀貨を取り出す。普通、お取り置きって陳列しないよね……? もしかしたら、売れなかった事を普段からお取り置きって言ってるのかもしれない。


「ありがとうございます。え~と……大銀貨一枚でいいんですよね?」


「おお、助かったよ! 欲しい物があれば安くするから、また買いに来てくれよな」


 もちろん、袋などはなく、直でバッグを渡される。


「えっと、はい、そのうち……」


 このバッグが何でこんなに安いのか聞きたかったけど、聞いても嘘しかつかなそうだし時間の無駄だと思い、バッグを受け取り、軽く会釈をしてすぐにその場を離れる。まさか、盗品とかじゃないよね……? 少し不安になり、人気のない路地に入って今更ながら検品してみる事にする。外見はちょっとつやがないものの、いい感じの色に経年変化しているように見える。つやがないのはお手入れすれば何とかなりそうではある。そして、中はというと何のシミかは分からないが所々汚れていて、収納や仕切りはなかった。ただの肩から下げる袋……。


 多分、収納や仕切りがないから、前の持ち主も色々な物をごちゃごちゃに入れて、こぼして出来たシミなのだろう。いつもだったらシミがあるようなバッグは買わないし、収納や仕切りがちゃんとあるものを選んで買うけど、選択肢がほぼなかったしインベントリを大っぴらにしない為に買っただけだから、まあ、十分と言える。


「とりあえず、バッグのお手入れ道具と何か食べる物でも探しに……」

 

 バッグを斜め掛けにして、先ほどの通りに戻ろうとそちらに目を向けると、格闘家みたいにムキムキな体格をした二人組がニヤニヤしながら、こちらに向かって歩いて来るところだった。明らかにすれ違えないように横に広がって歩いており、素直に通らせてくれるとは思えなかった。すぐさま、刺激をしないように、逆方向に早足で向かう。


 二人との距離が離れても後ろからは追いかけてくる気配はないし、ちょっと自意識過剰だったかなっと少し笑みをもらした瞬間、逆方向からも男が現れたのでその場で立ち止まる。その男はもの凄くガリガリに痩せてはいるものの異常に背が高かく、その見た目はとても人には見えず、えも言われぬ恐怖を感じる。すると、唐突に後ろから笑い声が聞こえ、振り返ると二人の男は手を叩いて笑いながら、余裕綽々といった感じでゆっくり距離を詰めてきていた。


 どうしよう? ムカつくからぶん殴りたいけど、戦わない事が一番の護身だっておじいちゃんに、いつも口が酸っぱくなるほど言われているし……。剣を持った二人組と弓を持った背の高い一人、どっちなら突破して逃げられる? やはり、後ろから弓で撃たれるのは避けたいと思い、近くにいる背の高い男に話しかける。


「あの、通して下さい」


「…………」 


「あの……」


「…………」


 反応がないので横を通り抜けようとしたところ、長い手が伸びてきて道を塞がれ後退る。まあ、これでこちらに危害を加えようとしているのは確定したね。


「次、道を塞いだら痛い目に合わせますよ!」 


 そう言ってもう一度、通り抜けようとすると、また手を伸ばしてきたので本手打ちで思いっきり相手の右手首に杖を振り下ろす。


「エイッ!」


 見事に手首を捉えると、男はくごもった悲鳴を上げたものの、今度は体を寄せて道を塞ぐ。でも、一瞬ではあったけど、顔を歪めていたので効いてはいるのだろう。それでも、ここまで体格差があると、急所を狙わないとやっぱり無力化までは無理そう……。


「おい! 何やってんだ! ウスノロ!」


「ガングリー! 逃がしたら、また、飯抜きにするぞ」


 抵抗すると思っていなかったのか、後ろの二人も慌てて駆けつける。なるほどこの背の高い人はガングリーっていう名前なんだ……。犯行時に仲間の名前を呼ぶとか相当、頭が悪いか、最初から殺す気だから気にしていないかだね……。まあ、どっちもありそうではあるけど……。

 

「おい、お前が金貨を持っているのは知ってるんだ! さっさと出せ! 俺たちは貴族なんて恐れていないし、抵抗するなら構わず殺すぞ!」


 貴族? というか、金貨は城門とギルドの受付でしか出してないから、その時に見られて、それからずっと尾行されてたって事? もしかして、あの城門の貴族の差し金? なんか、やけに敵視されていたし……。


「魔法を使おうとしても、詠唱が終わる前に叩き斬ってやるからな。下手な真似はするなよ!」


 こいつら、抜刀してるんだから、何されても文句は言わないよね! リーチで勝る杖術の恐ろしさを教えてあげなきゃだね! でも、ちょっと帽子が邪魔だから、インベントリにしまっておこう。


「なっ! 帽子が消えた! 魔法か? て、てめえ、何をしやがった!」


 やっぱり、インベントリはあんまり知られていないのかもしれない。


「兄貴、でも、こいつ詠唱してませんでしたよ」


「……もういい、大人しくよこさないなら、死体をあさるだけだ」


「で、でも、兄貴、殺しは重罪ですよ。捕まったら――」


 あれ、手下は意外と常識人?


「――う、うるせぇ! さっさとぶっ殺せ」


「…………うお~~~」 


 兄貴に逆らえない可哀そうな手下その一は、少し悩んだ素振りを見せたが、結局は兄貴の命令に従うようだ。その手下は大声を上げながら、分かりやすく上段の構えのまま、力任せに剣で斬りかかってくる。エレコはそれを右斜め前に体をかわして相手のこめかみ目掛けて逆手ぎゃくて打ちを叩き込み、そして、その流れで杖の間合いにいた兄貴と呼ばれていた男の顎にも返し突きを打ち込む。


「エイッ! ホーッ!」


 カウンター気味でもろに急所に攻撃が入ったからか、手下その一は白目を向いて崩れ落ち、兄貴と呼ばれていた男も、後ろに吹き飛ぶように倒れてピクリとも動かなくなった。(ふ~っ……何とかいけた……。昔は杖術の掛け声が恥ずかしくて嫌だったけど、咄嗟の時には自然と出るもんだね……何故か杖術の掛け声は打撃は『エイ』で、突きは『ホー』なんだよね。っていうかこの人たち、死んじゃってないよね……?)


 二人に近づき、呼吸をしているのを確認して、少しほっとする。剣を抜き、殺そうとしてきた相手なのに、心配してしまうのは平和ボケした日本人だからだろうか……。


「さあ、残りはあんただけだけど! まだやるつもり?」


 その言葉に対してガングリーは首を横に振る。もしかしたら、この人は話せないのかもしれない。それに二人の様子を見ながらも警戒をしていたけど、ガングリーは何もしてこようとはしなかったし、よく考えると、最初の時も掴んだり暴力を振るおうと思えば出来たと思うけど、わざとそうしてこなかった様にも思える。それだけで善良だと判断するのは安易かもしれないけど、本当は良い人で、ただ、悪い奴らに操られていただけなのかもしれない。


「じゃあ、あたしはもう行くから、二度と絡んでこないでよね! 次は止めを刺すって二人にも言っておいて」 


 ガングリーは頷くと倒れている兄貴と手下その一の襟首を掴むと、ずりずりと引きずりながら自分が現れた細い通路に向かって歩き出す。


「あっ! ちょっと待って」


 立ち止まり振り返った長身の男に、素直に答えが聞けるとは思っていないが疑問を投げかけてみる。


「あんたたちを、あたしにけし掛けたてきたのはこの街の門番?」


 すると首を横に振ると、右手に持った男を持ち上げこちらに見せる。こいつがけし掛けたという事なのだろう。


「ああ、なるほど……」 


 なんて事はない、犯人はそのまんま兄貴だったようだ。余りにも何のひねりも驚きもない答え……それよりもあの背の高い人が、百キロ近くありそうな人間を片手で軽々と持ち上げたって事の方がよっぽど驚きかもしれない。もしかしたら、あの人が本気になって、弓でも撃たれていたら、結構、やばかったのかもしれない……。


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