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ありがとうございます。


 続きは気長にお待ちください!


 お買い物を頼んでいる間に食事を済ませ、お風呂の準備を待ちながらしばしまったりする。肝心な料理のお味はというと、味は薄いものの香草がふんだんに使われていて想像よりは美味しかった。正直、街の屋台では硬貨や生肉をさわった手で、そのままお釣りを渡したり料理をしているのをみてドン引きして食欲が失せたから、ここの料理もちょっと不安だったんだけどね……。まあ、ここも調理風景がみえないだけで何しているかは分からないんだけど……。それでも、一番、心配していた衛生面が許せるレベルだったのは何よりも大きかった。それだけで、ここに泊まった価値があったまである。


 そして、紅茶を飲みながら給仕係の女性にこの街の話を聞いていると、想像以上の大荷物が部屋に届く。買い物を頼んだ女の子の話では、この宿の行きつけの商店に買いに行ったところ、すべて贈り物としてもらえたのだという。


「えっ? 私にですか?」


「はい、貴賓室にお泊りになっているお客様に頼まれたものを探していると伝えたところ、それなら商会からお贈りしたいと言われまして……。ですのでお代がかからなかったので、この大銀貨はお返ししますね」


 首を傾げながらも大銀貨を受け取り、積まれた木箱に目を向ける。


「…………えっと、この木箱、全部をですか?」


「はい、え~と、お近づきの印と言っていました。あっ! あと、頼まれていた物以外にも、クッキーと人気の紅茶の茶葉もお贈りするのでよろしければどうぞとの事です」


 お近づきの印……?


「…………貴賓室に泊まるとこういう事が普通なんですかね?」


「……いえ、私が知るかぎりでは初めてです」


「えっ……? これって大丈夫なんですかね? 何か裏があるとか?」 


「裏ですか?」


「え~と……例えば後から高額の料金を請求されるとか、何かを要求されるんじゃ……?」


「あ~っ! それは無いかと……。誠実な商売をするとこの辺りでは評判の商会ですし、うちの宿とは馴染みの深い商会なので、どちらかというと貴族さまとのつながりが欲しいのだと思います」


 なるほど、貴族との取引を増やす為のコネクション作りって事ね! ん? もしかして、私の事を貴族だと勘違いしてる? これって貴族じゃないと分かったら、料金を請求されたり面倒な事になるパターンなんじゃないの? そう思い、一旦は受け取るのを拒否したのだが、買い物を頼んだ女の子が怒られると今にも泣きだしそうだったので、結局、受け取ることにした。なので貴族じゃないとバレて後々、料金を請求されない為にも、身分の話が出たら出来るだけ話を濁して誤魔化す事にした。自分で貴族と言うのは罪になりそうだけど、相手が勝手に勘違いしたのは流石の罪にはならないでしょう……? ならないよね……?


 まあ、行きたくはないけど、お礼を言わないのも何かモヤモヤしそうだからと詳しくその商会の話を聞くと、これらを贈ってくれたのは平民街と職人街の中でも人気の高いグラマ商会なのだという。それで買い物に行ってくれたリーニャちゃんと給仕係のトリアさんの話では商会をさらに大きくする為に貴族とのつながりを増やして、貴族街にも影響力を持ちたいのではないかという事だった。というか、そういう噂はよく聞くのだそうだ。ふ~ん……貴族ってだけで、これだけの物を無料であげるだけの価値があるって事なのね。さすがは特権階級だね……。


 贈り物の大体の意図が分かった所で、早速、二人にも手伝ってもらい木箱を開けていく事にする。しかし、頼んでいたタオルや歯ブラシは期待外れなものだった。ん~……でも、有名店でこれなら他のお店でも大差ないんだろうな……。う~ん……タオルはどれも薄い麻製だし、歯ブラシはただの木の枝ってどういう事……? それでもこの枝は最高品質の歯木という歯磨きに適した枝なのだという。


「これで、歯磨き? どうやって?」


 二人に使い方を教えて貰うと、どうやら枝の端を噛んで扇状のブラシ状にして使い、塩を歯磨き粉代わりにして歯を磨くのがこの辺りの常識らしい。


「エレコさまは普段、何をお使いになっていらっしゃったのですか?」


「え~と、髪の毛をとかすブラシってわかります? そうそう、それの歯を磨く用の小さいブラシがあってそれを使ってました」


「なるほど、そんな物があるのですね」


「すごいね」「はい! 一度、見てみたいですね」


 凄いんだ……。見せてあげれるなら見せてあげたいけど、売ってない物は…………あっ! そういえばクラフトってスキルがあるんだから、自分で作ればいいんだ。え~と、どうやるんだろう? 試しにステータス画面を出して確認すると材料が必要らしい。なら今はまだ無理か~……。


「あっ!」


 そこで今更ながら、人前でステータス画面を出す危険性に気付き、思わず声を上げてしまった。


「どうされました?」


 二人が心配そうにこちらを見つめているが、ステータス画面には関心すらしめしていないように見える。


「あの~もしかしてお二人にはこれって見えていないですか?」


「これ? ですか?」


「虫か何かいましたか?」


 演技ではなさそうだし、ステータス画面は二人……というか自分以外には見えないのかもしれない。


「……そうそう! む、虫が飛んでいてちょっと驚いてしまって……」


 ここはごまかす為にトリアさんの言葉にのっかり話を合わせる事にする。


「ああ~……」


「なるほど、虫は嫌ですよね…………あっ! エレコさま、浴槽にお湯を運び終わったみたいです。それでは私はこの辺で戻らせていただきますので、また何かあればお呼びください」


「あっ! お買い物ありがとうございました」


 リーニャちゃんにお礼を言って見送ると、お風呂に入る準備を始める。するとトリアさんも一旦、部屋から退出するという。


「また、お茶など何か必要になりましたら、お呼びください」


 最初はチップをケチろうかとも思っていたけど、この二人とはお話もして仲良くなったし、お買い物代が無料になったのもあり気持ちも大きくなっていたので、トリアさんにもリーニャちゃんと同額の銀貨を渡し見送る。でもお湯を運んでくれた一番、頑張っていてくれたであろう従業員の人たちには、チップをケチったんだけどね……。だって仕方ないじゃない! 人数が多かったんだから……。





 ♦ ♦ ♦ ♦





 今からエレコさまは入浴をするという事なので、その間だけ同僚にかわってもらい商人ギルドに急いで向かう。銀貨をもらって夢じゃないかと腕を何度もつねったけど、本当に夢ではなかったようだ。私の記憶が確かなら下働きとして雇ってもらって早三年がたったけど、今までのお客様はたまに銅貨を貰えれば良い方で、私たちを奴隷か何かと勘違いしているお客様がほとんどだったと思う。だから何か月分ものお給金に匹敵する金額のチップをくれたお客様は今まで見た事も聞いた事もなかったし、もしかしたらだけど、あれが本当のお貴族様なのかもしれない……。本当に今日の買い物の係が私で良かった。これでずっと滞っていった仕送りを家族に送れる。リーニャは仕送りをする為に商人ギルドの受付に、ずっと送ろうと思って送れていなかった塩や服を作る為の布地などの荷物の中に、銀貨を紛れ込ませて持ち込む。


「あの……サンダ村のマルタにこの荷物を届けて欲しいんですが……」


「はい、お届け物ですね。サンダ村だとすぐに向かう隊商があったので、お願いしておきますね。え~と、配送料金が大銅貨三枚になりますね」


「はい、えっと、銅貨で払ってもいいですか?」


「はい、もちろんです」


 ずっと貯めていた銅貨を全て、木の盆にのせる。この送るお金を貯めるのも一苦労だったから、出来るだけまとめて送れるだけ送りたいと思い、送るのが先延ばしになってしまっていた。商人の人と仲良くなって行商のついでに、無料で持って行ってもらうのが一番なんだけど、ただの下女と仲良くなりたいような商人は大抵、体目的のスケベなハゲ親父と相場が決まっていたのでその方法は早々に諦めていた。


「確かに三十枚、確認いたしました。それではこちらの木札に届け先と送り主のお名前をご記入して下さい」


 渡された木札に記入をして受付の女性に渡すと、荷物にその木札を麻ひもでくくりつけてくれるので、それを見届けて手続きは終了となった。


「はぁ~良かった」


 リーニャはお財布は軽くなったけど、それ以上になんだか胸のつかえが取れて体も軽くなった気がして商業ギルドを出ると大きくジャンプした。


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