表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

800文字ショートショート

神が軽率に地上に降りてくるな

作者: 一色 良薬

 神。

 それは偶像的崇拝対象であり、人間とは程遠い神聖な存在である。


 私にとっては“神”とは遠くから地上を照らす太陽と同じ。

 太陽が地球に近づきすぎたら焼け燃えてしまうように、私も“神”が接触を図ってきたら死ぬ自信がある。

 だから“神”は軽率に地上へ降りてこないでほしい。

 信仰心の高いだけの人間に優しさを振りまかないでほしい。

 軽率に下界でのうのうと暮らしている庶民に、後光と天界の花々を背負って挨拶しないでほしい。


 私のことを天界からうごめく塵の一部として、微笑ましく眺めていてほしい。


「相変わらず拗らせているというか、面倒臭いというか」

 聖書の一部を読み上げるように、淀みなく己の信仰心を唱えきった茅ケ崎に、俺は半分感心と呆れを混ぜた眼差しを細めて向けた。

 茅ヶ崎本人はこちらを一切見ようともせず──言葉さえ届いているのかも分からない──煌々と光を放ち続ける液晶に両手を合わせて祈りを捧げている。

 そこには容姿端麗な、茅ケ崎の信じる“神”が映っている。優美で繊細な笑みが女性らしさを演出しているが、紛れもない男性俳優であることを俺はよく知っている。

「野神三賀のどこが好きなの」

「全て。演技から、造形、性格、生き方全て」

「食い気味で説明どうもありがとうね」

 迷いがない茅ヶ崎の言葉に首を擦る。俳優の一挙手一投足に合わせて感嘆の息を漏らす姿は、見ていて気恥ずかしいものがあった。

「だから一生線を越えてこないで下さい」

 はっきりとした口調で境界線を引く茅ヶ崎の根性に、いや信仰心に素直に拍手を送りたくなる。

 彼女は俺の劇団の演出であり、俺は劇団の看板役者。

 そして彼女は俺の、“野神三賀”のファンであり、驚くほどに心酔している。

 俺が舞台から降りて“野神三賀”の仮面を捨てて話しかけようとすると、視界に入れないようにするほどに。

「俺は茅ヶ崎ともっと仲良くなりたいけどな」

 だから軽率に降りてくるな。

 小さな抗議が茅ヶ崎の口から吐かれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ