【番外編】プロローグ
子供の話です。
長編ではないけど一話にまとめると長いので。
連載形式。
18歳の成人を祝って開かれた宴で、俺はうっかりアルコールの入った飲み物を飲んでしまった。初めて口にしたその飲み物は炭酸が入った甘い果実酒で口当たりがよく、平気で飲み干している俺を見て周囲は自分が飲んでいるのはジュースだと思っていたようで誰も気に留めてはいなかった。
しかし、身体は正直で妙に熱くなった体温を持て余した俺は夜風にあたる為にフワフワした気分のまま船のデッキに出て、そのまま海に落ちた。
「エルタラサ殿下!」
遠くで自分を呼ぶ声が聞こえたが、酔った頭はそのまま意識を手放した。
「あ、起きた。」
次に目を開けると砂浜だった。
正確には砂浜に横たわった自分を見たこともない女が見下ろしている。
ぽたぽたとその茶色い髪からは雫が落ち、そのままそれが砂に吸い込まれている事に気づいて自分がどうなっていたのかを、思い出した。
これぞ、一生の不覚。
人魚の血を引く俺が、酒のせいとはいえ海で溺れて女に助けられた。
女は俺の意識が戻ったことを確認すると側から離れて濡れた髪をきゅっと絞り一つにまとめた。当たり前だが身に着けている服はしっかりと濡れたまま。
俺はゆっくり起き上がると手足を動かしておかしな事はないか確認した。
「すまない。迷惑をかけたようだね。」
エルタラサが余所向きの口調で声を掛ける。
「ええ、一人になりたくて散歩に出てまさかの拾い物でした。」
エルタラサの問いかけに女は心底嫌顔をしながら、そう応えた。
俺を見てその反応と言う事は外国人か?
エルタラサは改めて自分を助けたであろう女性を見た。
茶髪の長い髪をひとまとめにくくっており、濡れてしまったドレスは外出用の為、比較的簡素なものになっているとはいえかなりの上質なものと分かる。あそこまでしっかり濡れてしまったらドレスは廃棄するしかないだろう。それを人命の為とはいえ惜しげもなく海水に浸したのか?
自分の知る女達なら直ぐにドレスについて苦言と保証をねだってくる筈なのに、目の前の女はそんなそぶりは一切ない。だとすれば余程のお人よしか、大貴族か。
……もしや偶然、海の中で俺を拾っただけなのか?
「私のために海に入ってくれたようだな?」
疑問形になってしまったのはなんとも間抜けだった。
しかし女はそれが気に入ったのか、ふっと笑った。
「そうね、魚たちがつつき回している貴方を見かけて仕方なく海に入ったわ。感謝しなさい。あと、申し訳ないけど私そろそろ行かないといけないの。」
「ああ、助かった。ありがとう。」
エルタラサは素直にお礼を言い、優雅にお辞儀をした。
そして、意図的にゆっくり体を起こす。
視線の先には既に走り去る女の後姿が小さく見えるだけだった。
次回は2/10です。




