【番外編】5
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少しでも可能性があるならそれは試してみたい。
エルカイルは諦めてなどいなかった。
「そうね、確かに。数年は一緒にいたわね。」
エイミイは真剣なまなざしを自分に向ける義理の息子にやんわりと微笑んだ。
「あの時は初めての事で、ラウールだけに任せるのが心配で必死だったわ。だから少しだけズルをしたの。」
「ズル?」
「アメリアがお腹にいる期間を短くしてその分の残った生命力で自分自身を治療しようとしたのよ。結局治療は間に合わなくて真珠になったけど少しだけアメリアと一緒の時間が出来たわ。」
「自分自身を治療ですか……。」
真珠になってしまえば全ての機能は停止してしまうが人の形を維持できるだけの力さえあれば何とかなるかもしれない。当時の彼女はそう考えたという。
しかしそこは育児の過酷さを甘く見ていたと言うわけで日々の生活に消えていく体力が医療のそれを上回ってしまい計画は泡と消えたというわけだ。
「今考えれば恐ろしいことをやったと思うわ。アメリアを未熟児の状態で産んでしまったのだもの。今なら絶対できない。勿論やらせないわよ?」
「ああ、そんなことはしない。」
エルカイルも話を聞いてとてもではないが実行できないと感じていたのでエイミイの話に大きく頷く。
「貴方たちは、また私をのけ者にするおつもりですか?」
不意にバルコニーのドアが開いてソニンが現れた。
「あら、早かったわね。」
「以前の二の舞は御免ですからね。手紙を貰って急いで駆け付けました。」
「あら、何のことかしら?」
ソニンはゆっくりと歩いてエイミイの隣の腰かける。
「暫く行方が分からなかった叔母がいきなり子供を産むと言う手紙をお婆から受け取った時ですよ。当時若かった私は自分の用事を済ませて軽い気持ちで貴方に会いに行って真珠玉を受け取ることになった。」
ソニンはにこやかに離しているはずなのにエイミイを見つめる目つきはとても冷ややかなものだった。
「あの後、遥か深くの海底にいる母やあなたのお母様にどれほど叱られたことか……。」
「それは初耳。」
「もし、今回、真珠玉になり果てたアメリアを渡されたら悲しみのあまり私はきっとこの海域を壊していたかもしれません。だから早めに連絡をいただけて助かりました。」
「何か良い案があるの?」
ソニンの言い方から何かを察したエイミイが尋ねた。
「先程の貴方たちの会話からヒントを得たのですが、まずは子供を産むときに全ての生命力を使い果たさないようにすれば良いのですよね?それなら私がそのタイミングで少し彼女に生命力を分けてあげればよいかと。」
「ああ、そう言う事ね。でも一時的な事よね?」
「はい。今の私は長としての役割がありますからに一人だけに力を注ぐ訳にはいかない。そこからは叔母上の力次第と言うことになります。」
エイミイは何かを考えながら深く頷いている。
ただの人間のエルカイルは、人魚の二人が話し合うその光景をじっと見ているだけだった。




