【番外編】4
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「一年だ、たった一年。やっとリアと夫婦になって長い人生を共に過ごしていこうと誓ったばかりだ。それなのに君は簡単に俺の側からいなくなろうと言うのか?」
この感情をどこにぶつけて良いのかわからない。きつく握りしめたエルカイルの拳はテーブルの上でこれ以上は無理と言わんばかりにギシギシと音をたてていた。
「俺はそんなことは認めない。」
「カイル様……。」
アメリアはそっとその片方の拳を両手で包むとそのまま自身のお腹の上へと導いた。
「では、この子は?」
アメリアの手の中で彼の拳がピクリと動いた。
「私を優先するならこの子の事は?いらないなんて言わないでくださいね。」
「リア……。」
「私だってカイル様とずっと一緒にいたいです。でも私たちはもうこの子の親になるんですよ?それなのにお父さんが我儘を言っては困ります。」
アメリアは、ただ微笑んでいる。
「私は産みます。だからカイル様も覚悟をしてください。」
「覚悟?」
「私がいなくても、この子を育てる覚悟。きっとこの子は母親を知らないで生まれるんです。それでも寂しくないように、私の分までいっぱいの愛情を注いであげてください。」
アメリアが父ラウールから受けた愛情は少しだけ判り辛かったから、自分の子がそうならない様それだけはエルカイルに約束して欲しかった。
「当たりまえだ。俺だけでなくエルアトスも父上もきっと可愛がる。」
「では、安心して私は赤ちゃんを産む準備をできますね。」
アメリアはもう決めてしまったのだ。
それはエルカイルにも覆すことはできない決意。
「大丈夫。真珠になってしまっても案外早めに帰ってくるかもしれませんよ?でも待てないなら……」
自分の事は忘れて別の人を探して、そう言いかけて口をふさがれた。
「忘れない。」
触れた唇がそっと離れていった。
「それこそ君は忘れてしまったのか?もう二度とリアの事は忘れないと誓った。」
「はい。」
「だから安心して戻って来い。」
アメリアの胸にモヤモヤとしていた不安がその一言で消えていく。
子供を産むことは全く迷わなかった。
ただ、一人残すエルカイルの事は諦められなかったのだ。
彼の横に自分以外の女性が立つ可能性、それは考えただけで胸が苦しかった。
「いっぱい肖像画を描こう。それでお母さんがどんなに美人なのかを生まれてくる子に教え込んでおく。」
「カイル様……。」
エルカイルのその軽い口調にアメリアは頬を赤く染めた。
「じゃあ、良いわね。産むならここの方が都合が良いと思うからその時には申し越し相談しましょう。」
見ていられなくなったエイミイが呆れたように口をはさんだ。
夕食を食べた後、エルカイルはエイミイに部屋へとやってきていた。
「アメリアは寝てしまったのね?」
「はい、夕食を食べている時から既に眠かったようで今はベッドでぐっすり寝ています。」
「わざわざここに来たのはなにか私に聞きたい事があると言う事でいいかしら?」
エイミイは軽いワインをグラスに注ぎエルカイルに手渡した。
エルカイルは少し緊張しているのかそれを受け取るとすぐに、こくりと喉に流し込んだ。
「はい。」
エルカイルは勧められるままにゆっくりとソファに腰を下ろした。
そして正面に座るエイミイをじっと見つめる。
「以前アメリアは小さい頃は義母さんと一緒に過ごした記憶があると言っていました。それが真実なら、本当は人間のままでいられる方法があるってことですよね?それを教えてください。」
明日も18時更新予定。




