【番外編】1
番外編です。
一度で終わらないので少々連載。
プロローグ
彼女は朝起きてすぐに気が付いた。
それは幸せな、幸せな、身体の違和感。
初めて体感した感覚なのに彼女の本能がそれを理解した。
「ラウール。私、赤ちゃんを産むわ。」
彼女の傍らで気だるげに目を覚ました一人の王子は、大きく目を見開きそのまま彼女を優大切に抱きしめた。
それはとても幸せで、
少し悲しい別れの始まりだった。
◆◆◆
「アメリア様、そろそろ殿下が待てないとおっしゃってます。」
「ちょっと待って、準備が終わるから。」
少し大きめな声で返事をしながらアメリアは侍女と共に外出の準備をしながらドアの向こうをチラチラと気にする。
アメリアがエルカイルと無事結婚してルイタスで暮らし始め、早くも一年。
とても『仲が良い』王太子夫妻のことは国中で大変『微笑ましく』迎え入れていた。
やっと侍女から解放されたアメリアは続の間で待ち構えているでろう夫のためにそっとドアを開ける。
そこには予想通り嬉しそうに微笑む彼女の最愛の夫、エルカイルがいた。
彼女が近づくよりも早く、彼は素早くアメリアの側に来るとその唇にそっと口づけをする。
「リア、最後の仕上をさせて貰うよ」
そう言ってキスを一つ、彼女の首筋に。
うっすら赤く後が残るそれはあの事件からの彼の癖。
というか、誓い。
もう一年になるのにずっと続くその行為にどうしても慣れる事が出来ないアメリアはいつも首筋の跡以外に耳をほんのり赤く染めてしまうのは仕方がない。
初めは見える所には恥ずかしいからしないでくれと根気よくお願いしたアメリアだったが元々頑固な性格のエルカイルはいつも見える所にないと落ち着かないとの一点張り。最後はアメリアが折れたのだった。
正式な結婚を経て、各所へも出かけることが多くなった当時、初めこそ『その印』が話のネタにされる事がことが屡々あり、その度にアメリアの体温がほんのり高くなっていたのだが、それも今では見慣れた印となり二人に面会する誰もがそれをなま温かい眼差しで受け入れてくれていた。
「カイル様、常々思っていたことですが毎日付け直さなくとも二日に一度でも消えないと思いますが?」
視察のために用意された馬車に乗り込みアメリアは備え付けられた鏡で自分の首筋にくっきりと浮かび上がる赤い印を見つめ、頬をほんのり赤く染める。
常に首筋にキスマークがあることはもう諦めた。でも毎日侍女たちがいる前での首筋にキスの習慣はいつになっても慣れないし、とても恥ずかしい。
実は見えないところにも沢山あるのだがそれは内緒。
「いいかい、リア。これは私の男としての誓いなんだ。君を忘れてしまうなんて愚かなことは二度としないと毎日君に触れながら心に誓っている。そんな私の尊い儀式を君は奪うつもりなのか?」
真剣な目で見つめられるとアメリアはとても弱い。
「いえ、カイル様のお考えはとてもありがたいのですが……。」
「それにリアは、いつになったら私の事を《カイル》と呼んでくれるんだ?」
あの事件以来、義弟となったエルアトスがアメリアを「アメ様」と呼ぶようになり、それに嫉妬したエルカイルがアメリアの事を「リア」と呼びたいと言ってきた。
その時に自分の事は《カイル》と呼んでくれて構わないと言われたのだが直ぐに呼び方を変える事も難しく今はやっと『カイル様』に落ち着いている。
「カイル様、ではダメなんですか?」
「アイツと同じ呼び方なのが気に入らない。」
優しく尋ねると、プイっと横を向いてしまった。
そればまた可愛く感じてしまいアメリアはクスクスと笑ってしまった。
「仕方ないだろ、私はリアの事が一番大切なんだ。だから私もリアの一番になりたい。」
「え?私の一番は勿論、カイル様ですよ?」
至極当然のことを言われてアメリアは迷うことなく応える。
それはとても当たり前すぎて、疑問に考えたこともなかった事。それなのに彼は心配していたなんて。すると正面に座るエルカイルの耳がみるみる赤くなっていくではないか。
「そ、そうなのか。それはすまなかった。大体君はエルアトスとも仲が良いからつい俺が一番なのかと気になってしまって……。」
「疑うなんて酷いです……。」
「リア……。」
「お詫びにキス。」
「ああ。」
恥ずかしがるアメリアもエルカイルがしてくれるキスはとても好き。
だからつい自分からおねだりをしてしまうのは当然の事。
ふたりの唇がそっと重なり、そして外の従者が声を掛けるまで暫くそれは離れることはなかった。




