47. 提案6
「お待ちしておりました。アメリア様」
翌日、体調が回復したアメリアは予定通りエルアトスと共にルイタスへとやってきた。出迎えてくれた使用人には見知った顔もいてアメリアは『やっと帰ってきた』ことを実感し、嬉しくなった。
「すまないね、エルカイルの隣のあの部屋は今、君の妹が使っている。」
パントバリウスに挨拶に行くと申し訳ないと頭を下げられた。
いつもアメリアが使っていた、短い間だったが思い出の詰まった『あの部屋』。
「仕方ないです。私には別の客間で構いませんので。」
「父上、僕の隣の部屋をアメリア様に。」
アメリア提案にかぶせるようにエルアトスが言い、パントバリウスが一瞬目を見開いた。
しかし直ぐに元の柔らかい表情に戻る。口もとが少しだけ緩んだのは気のせいだろうか。
「そうか。分かった用意させるのでその間はアメリア姫をお前の部屋で休ませて差し上げるとよい。」
「ありがとうございます。アメリア様、行きましょう。」
エルアトスは深くお辞儀をするとアメリアの手を取り、近くにいた侍女に指示を出すと二人は無言のまま部屋を後にした。
「すいません。アメリア様。勝手な事をしました。」
エルアトスの部屋に案内され勧められるままに二人でお茶を飲んでいると、ずっと黙っていたエルアトスがようやく口を開いた。
自分の隣の部屋、勿論本来なら婚約者が使う部屋だ。そこを父の前で自ら指定したのだから彼には自分の気持ちがバレただろう。このままいけば兄のエルカイルとの話が破綻したとしても彼女の気持ちがどうであろうと父の提案通りに事が進んでしまう。
「いえ、部屋を準備していただいて感謝していますよ?」
そう言ったことには疎いアメリアはなぜ謝られたのか分からないまま、こてんと首を傾げた。
可愛らしい。
今までは兄の婚約者の癖に世間慣れしていない姫だと漠然と認識し、少しばかり呆れていた。それが今となってはそんな仕草までエルアトスの庇護欲を掻き立てる。
もう兄の事は諦めてはいかがですか?
つい口に出そうになりエルアトスはあわてて別の話題を口にする。
「今、隣の部屋に以前のアメリア様の部屋に残されていたものを揃えさせています。もう少しお待ちください。」
「以前ものですか?」
「ベッドなど調度品は動かすわけにはいきませんが、以前使われていたものは全て兄の指示により保管されていました。今それを用意させています。」
隣の部屋からの物音はどうやらその作業の音のようだ。
「そんな、わざわざして頂かなくても……。」
「いえ、もしかしたらこのままずっとお使いになる部屋になるかもしれませんし。」
エルアトスが口にしてしまったというような表情で顔を逸らした。
流石にその言葉の意味は分かったアメリアの頬がほんのり赤く染まる。
「そう言う意味なら、隣の部屋は使えないとお伝えしないと……。」
「どうするおつもりですか?」
辞退の言葉を口にするアメリアにエルアトスは優しく問いかけた。
一日到着がずれた関係もあり準備の時間がなくなり、明日には遠方からの招待客はそろそろ到着する予定だ。遅くとも二日後までには体制を決めておく必要があった。
流石にこれ以上曖昧にはしておけない。
それにあのエルカイルの状態も気にかかる。
「明日……エルカイル様と話してみようと思います。」
「僕もご一緒しても?」
「はい。」
丁度、侍女が部屋の準備が出来たと呼びに来た。
侍女に案内され部屋に入ってみると、エルアトスの部屋と揃えてあいるのだろうそこはスッキリとした緑の空間だった。配置されている家具は依然使っていた物とは違うが机に並べられているものはあの時のままの物だった。
懐かしさに思わずうっすら涙が出てくる。
先程は必要ないと思っていた物たちもこうやって目にするとやはりアメリアにとってはとても大切な物だった。
「お疲れでしょう?少しゆっくりしていてください。」
「ありがとうございます。」
エルアトスはそう言って侍女と部屋を出て行った。
クローゼットを開けてみるとそこには色とりどりのドレス。すべてがエルカイルの指示のもと作られた物だった。一つ一つ手に取りその思い出に頬が緩む。
そして不自然なほど大きな衣装ケースが目に留まった。
「このんなもの持っていたかしら?」
アメリアは箱の蓋に手を添えるとそっとそれを開けてみた。
真っ白いドレス。
ふんだんにレースがあしらわれたそれは手に取るとふんわりと軽く箱から出て大きく広がった。
そして一枚の紙が中から出てくる。
《貴方との結婚式を楽しみにしている》
良く知る少し癖のある文字が、心なしか少しだけ踊っているように見えた。
ソロソロ決着予定……多分。




