46. 提案 5
「では兄上、後ほど城でお会いしましょう。」
「ああ。」
翌日、カメリアとエルカイルが乗る馬車を見送ってエルアトスは今朝になって発熱をしたアメリアのもとへと急ぐ。
部屋では既に起き上がって侍女が準備した薬湯を飲むアメリアの姿。
「エルアトス様、大げさです。」
サブリナがため息をつきながらエルアトスに普通のお茶を差し出した。
「しかし、微熱とはいえ長時間馬車に乗るのは……。」
「お嬢様は昔から少々難しい考え事をすると熱が出るのです。落ち着けば熱も下がります。」
いわゆる知恵熱。
朝からオロオロするエルアトスに対して悠然と現れた城の医者からも同じを説明された。それでも自分が昨夜発言した事が要因だと分かっている彼は落ち着くことはできない。
だから彼女の不調を理由に、もう一日出立を遅らせる手配をして兄達だけは送り出した。
アメリアの事を告げた時に一瞬兄が顔をしかめていたが、カメリア姫に早くルイタスの城を見たいとねだられてると諦めたように馬車に乗りこんでいった。
「アトス様、私の事は本当にご心配なく。基本的な体力はあまりありませんが、これでも病気にだけはならない体質なのです。」
熱を帯びたほんのり赤い顔でアメリアがニコリと笑う。
いつも儚い印象の彼女が更に儚く、それでいて気丈に佇む可憐な一輪の花のようにも見えた。
「お嬢様、余計なお世話かも知れませんが、これからは外に出られる機会が増えるのですから体力はお付けになった方が良いと思います。お食事を用意してきますね。」
「……はい。」
アメリアがサブリナに注意されてシュンと小さくなる。
「エルカイル殿下のお食事もここにお持ちしますので、暫くお嬢様をお願い致します。」
部屋に控えていた侍女たちを引き連れてサブリナが出て行くと、二人だけで取り残された。
「エルアトス様……すいません。大事な出発の日でしたのに。」
「いえ、僕が安心したかっただけですから。」
自分たち以外がいなくなり気まずい雰囲気が漂う。
何となく少し視線をそらす二人。
「アトスとは呼んでもらえないのですね。」
「あ、いえ、二人だけだったので。」
実は昨日アメリアから返事を貰えていない。
断られたのではなく、『もう少しだけ、待って』と小さく呟かれた。
その言葉を聞いた時、エルアトスは自分でも驚くほど落胆し、そして気付いた。
自分は彼女に惹かれている。
兄の婚約者の彼女に。
本来なら気付く事さえ無かった感情に戸惑い、欲が出た。
このまま兄が元に戻らなければ。
脳裏にかすめた考えに、エルアトスは二人の幸せを願っていた筈なのにと、自分を嫌悪した。しかし今朝彼女を見たらどうしても愛しく想い、離したくないと思ってしまう。
だから彼女の不調を理由に出発をずらしたのだ。
「兄は……貴方の事を気にかけてつつも行ってしまいました。」
とても気にしていたがカメリアにねだられたから仕方なく、そう言えば良いのについそっけない報告になってしまった。
「そうですか。」
力なく呟いたアメリア見て、チクリと胸が痛んだ。
「兄の事が気になるようでしたらアメリア様の体調が回復されたら、午後にでも出発しましょうか?」
「いえ、明日で良いです。少し考えたい事もありますので……。」
ルイタスの城に着いてしまえば記憶の戻らないエルカイルを説得しての結婚か、弟のエルアトスと新たな婚約か。
勿論アメリアの気持ちはずっと変っていない。
しかし、今度また彼に拒絶されたら自分は生きていけるのだろうか?
昔絵本で読んだ恋に破れた人魚が海に身を投げる気持ちが何となく分かったような気がした。
短いです。
明日も同じ時間に更新予定。
誤字報告、ありがとうございます。




