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43.提案2

 まだ少々具合の悪いアメリアのためにサブリナによって少しゆとりのあるドレスが用意された。丁度着替えが済む頃、別室で待機していたエルアトスが戻ってきた。入室するなりアメリアの手を取ってじっとその顔を近づける。


 エルカイルより少し低め、アメリアの頭直ぐ上にある視線はここ一年で馴染んだものと違い緊張から顔が赤くなっていくのが分かった。


「アメ様、ドレスの色も手伝ってくれているかもしれませんが先程よりは顔色が良くなってきましたね。少し安心しました。」

「……ありがとうございます。」


 普段は見たことのないその笑顔と『アメ様』呼びがとてもくすぐったい。


「エルアトス様、その……」

「アトス、ですよ。」

「……アトス様、あのもう少し離れて頂けませんか? 先程から胸が何やら落ち着かなくて。」

「おや、それはいけませんね。心配ですから僕が支えましょう。」


 離れて欲しいとお願いしているのに何故か更に近づかれる事になりアメリアは戸惑う。これが諜報の仕事として令嬢達に接する時の彼のやり方なのだろうか?これではどんな淑女でも直ぐに彼に惚れ、なんでも話してしまうに違いない。


「アトス様、……恋人のフリは部屋を出てからとおっしゃいましたよね?」


 やっと平常心が戻ってきたアメリアは正面に立ちずっと手を握りつつける相手に向かって少しだ睨んで見せた。


「そう言ってはいましたが貴方の場合は少しここで慣らしていかないと直ぐにバレてしましそうです。可愛い顔に睨まれるのは初体験です。」


 そう言ってクスクス笑う彼の顔はアメリアがいつも知っている彼だった。


「では少し座って打ち合わせをしましょう。」


 彼はそう言ってソファへアメリアと共に腰下ろす。

 直ぐに暖かい紅茶が用意された。

 エルアトスが既に手配していたようだ。

 暖かい紅茶が喉を通って更に落ち着く。


「ます初めに、昨日まで『義理の弟』予定だった私がいきなり婚約者候補になってアメ様がそれを受け入れたという設定は普通は無理があります。」

「はい。」

「なので、私が以前から貴方の事を実は慕っていたという設定はいかがでしょう?そして兄に冷たくあしらわれたアメ様はそれを告白されて仕方なく受け入れた。」

「しかたなく、ですか?」

「はい。それなら私だけが貴方にべったりでも不自然ではありませんし、自分に寄り添ってくれている私に『少しだけ』心が揺れている程度の事なら万が一兄が正気に戻って覚えていてもそれほどお二人の仲に支障はないかと。」


 確かにフリとはいえ、いきなりじゃあ弟のエルアトスでと言うのはあまりにもアメリアの心変わりが速すぎる。そこのあたりも配慮そしてくれている事に驚いた。


「……私は何をすればいいのでしょう。」

「なにも、私がすることに反応してくれれば良いです。でも恋人なので拒んではだめですよ?」


 エルアトスがニッコリと笑った。




 ◆◆◆



 エルアトスと連れ立って彼らが『閉じ込められている』という応接室へ行くと中ではソファにエルカイルとカメリアが座ってお茶を飲んでいた。

 彼のカップを持つ反対の手はカメリアの手へと乗せられ、カメリアもそれを拒んていない。


「兄上、カメリア様に何やら困ったことを言っていると伺いましたが?」


 エルアトスは先程とは打って変わってきつい視線を二人へ向けている。


「ああ、先程カメリア姫に『当初の予定通り』結婚したいと話した。」


 アメリアの腰に回されていたエルアトスの手が今は心強い。一人で聞いていたらもう一度倒れていただろう。

 そのまま彼の肩に寄りかかる様に重心を傾けると少しだけ抱き寄せる力が強くなった。


「そうでしたか、それなら僕も安心しでアメ様と結婚の話を進めでも良いですね。」



「アメ様だと?」


 エルカイルの視線がエルアトスの隣にいるアメリアへと移った。



「君はたしかカメリアの姉のアメリアだな?確か『今の』私の婚約者だと言われていたはずだが違ったのか?」


 じっと相手を見つめ、眉間に一筋のしわ。

 何度か見たことのある不快な時にエルカイルがする目つきだった。


「先程僕が隠してきた気持ちを打ち明けたんです。クリークに来る時にも父上に話して許可は貰いました。兄上が心変わりするなら僕がアメ様と結婚します。」


「アトス様……。」



 エルカイルの視線から逃れたくてアメリアはそっと近くにあるエルアトスの顔を見上げた。


「先程、アメ様からも『お試しのお付き合い』の許可を貰ったところです。」



 そのままそっとおでこにキス。


 体中の体温が一気にあがったのが分かる。

 思わず離れようとしたら強く抱きしめられた。


「逃げないで。僕の宝石姫」


 耳元でこっそり囁かれて再度赤面。


 ガッ!


 大きな物音が室内に響く。


 見ればそれがエルカイルが立ち上がって机の脚を蹴りつけた音だと分かった。

 武闘派な彼だが所作には人一倍気を使っている事を知っている。それが他国に応接室で机の脚をけり上げるとは、珍しい光景だった。

 彼はそのままアメリアたちの前に歩いてくると口を開いた。


「俺がだめなら直ぐにエルアトスか?とても不愉快だ。」


 呆然とするアメリア。


「ち、ちがう……」


 アメリアが小さく呻いた。





「失礼。」


 彼はアメリアの呟きに振り返る事も無く、そのまま部屋を出て行った。



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