42.二人の王子の事情(エルカイルとエルアトス)
視点が殿下二人となります。
頭の奥が鈍く痛い。
恐らく先日間者に襲われ軽く相手をした時に負った頭の傷のせいだろう。
昨日、起床してから城の者にいろいろ言われた事も頭痛の一旦だ。
周囲の者は俺がおかしくなったと騒ぎ立て、父上にまで叱られた。
なにが変だというのだ?
朝起きていつも通りその日のスケジュールを側近に確認した際に俺の指名したカメリア姫ではなく姉の方のアメリア姫との結婚が控えていると言われて何故そんなことになったと疑問を口にすれば直ぐに医者が駆けてきた。
その後もいろいろな事を質問、確認され、わからない事は一切なかった。
ただ一つだけを除いて。
なぜ、婚約者がアメリアなのか?
自分は結婚相手にクリークのカメリア姫を指名し、快い返事をもらったはずだ。それがいつの間にがアメリア姫に変っていて城の者は一切それを疑問視していない。むしろ『カメリア』と口にするたびに自分は周囲から嫌悪された。
結婚式を来週に控えているので花嫁を迎えに行けと言われて、それが自分の事だと実感がわくわけもなく、出立前に父に呼ばれた時はまだ間に合うかと思い思い切ってカメリアとの婚姻を願ったが見たこともない剣幕で怒鳴られた。直ぐにエルアトスが呼ばれ二人は俺を置いて奥の間へ姿を消し何やら話し合ったようだった。
その後言われた事。
そこまで『カメリア』にこだわるなら勝手にしてよい。
もし、アメリアと結婚しないのなら王太子はエルアトスへ移る。
その二点。
もしそうなったら王太子でない俺は臣下に降る事となる。
勿論アメリア姫には何の感情もない、王太子の地位もいらない。
そんな俺でもカメリアは結婚してくれるだろうか。
兎に角二人の姫に会ってみろと言われて当初の予定通り馬車に乗り込み、一人で行かせられないと同行を申し出た弟のエルアトスと二人クリークへ、やっと彼女に会える。
しかし馬車が止まったそこには望んだカメリアではなく姉の方がいた。
「貴方が、アメリア姫か。」
初めて見る彼女に冷たく一言いえば、周囲の空気がそれと共に一桁冷えたのがわかった。そして何故か彼女の怖がる顔を見てチクリと胸が痛む。
しかしそんなことはさしたる問題ではない。
「ところで、カメリア姫は何処にいらっしゃるんだ?」
近くに控えていた侍女に聞くと、びくりとして視線をさまよわせた。
しかし、尋ねられたことに答えないのは不敬と思ったのか直ぐに姿勢を正した。
流石クリークの侍女だ。
「カメリア様は、別塔にいらっしゃいます。」
「案内してくれるか?」
このままここで時間を無駄にしたくないのでそのままその侍女に案内を頼むと城の執事らしき男が慌てて入ってきた。
「殿下、ますはアメリア様とお茶でも如何でしょう?」
「いや、必要ない。」
少しばかり困った顔をする執事。その視線は俺の隣にいるエルアトスに向けられている。
「兄上、貴方の婚約者はアメリア様です。」
「まずは、彼女の会ってからだ。そして決める。案内しろ。」
執事がペコリと頭を下げたのは俺に対してなのかエルアトスに対してなのか。兎に角俺は案内しますと言って歩き始めた執事の後をゆっくりと歩きはじめる。
背後でアメリアを気遣う声がするが、そんなことは今の自分にはどうでも良かった。
◆◆◆
「こんにちは、カメリア姫」
通された応接間で待っていると暫くして、美しい金色の髪を持つ少女が現れた。
ああ、彼女が金の宝石姫カメリアだ。
直ぐにわかった。
「いらっしゃいませ、エルカイル殿下。今日はお姉様と一緒ではないのですね?」
カメリアは不思議そうに俺を見つめてきた。
ああ、やはり自分は姉の方と婚約していることは間違いないようだ。
しかし、今は目の前にいる初恋の姫を手放したくない。
それに父上も勝手にしろと言っていた。
「少々事情があってな、今日は君と二人で話をしたいと思ったんだ。」
「はあ、そうですか……じゃあ、少しだけ。」
カメリアは向かいのソファに腰かけると侍女のお茶の用意をするように指示を出した。
その間に、少し幼さが残るその横顔をじっと見つめる。
何故だろう、何も思い出せない。
馬車の中でエルアトスが本人達に会えば思い出すと言っていた。
自分もそれを期待していたのだが………。
「で、話とはなんでしょう?」
「……そうなね。君には今、婚約者はいるのかな?」
自分がアメリアの婚約者ならカメリアにも婚約者がいるかもしれない。そうなると話の方向が変わってくる。
まずは確認からだ。
「いませんよ?」
カメリアは何を当たり前の事だと首をかしげている。
「そうか、ならどうだろう?俺と結婚しないか?」
「は?」
ガシャン
侍女が用意したティーセットが大きな音を立てて床に散らばった。
◆◆◆
「お嬢様、ご報告があります。」
先程慌てた様子のメイドが入ってきて何やらサブリナが廊下で報告を受けていたのだがその件らしい。
「その前に、エルアトス殿下お嬢様の側に付いていて貰えますか?」
「ああ。」
サブリナに真顔で言われて訳も分からずエルアトスは未だベッドの住人のアメリア様に寄り添う。
そしてそれを確かめて、ゆっくりと彼女は口を開いた。
「先程、エルカイル殿下がカメリア様に求婚なさいました。」
アメリア様の身体が大きく跳ねた。
それを慌ててエルアトスが支える。
呼吸まで荒い。
「今は二人を応接室に閉じ込めてありますのでお急ぎご準備を。」
彼女はそう言うとドレスを選ぶために奥の部屋へと消えていく。
残されたのは二人だけ。
兄上の行動力を甘く見ていた。
まさかこんな早く事が進むとは。
「エルアトス様……そんな、私どうしたら……。」
小刻みに震えているアメリア様をそっと抱き寄せる。
こんなに彼女の肩は弱々しいものだっただろうか?
彼女を抱きしめていると、年下の自分でも彼女を守って差し上げたいとそんな感情が湧き出てくる。
腕の中でぷるぷると震える可愛い、兄上の婚約者。
自分はこの可愛い彼女のために何ができるだろう。
兄上がその気ならいっそこのまま婚約する?
いや、それは悪手でしかない。
衣裳部屋からサブリナがドレスを持って出てくるのが見えた。
「アメリア様、今日だけ私の恋人になっていただけませんか?」
「???」
これ以上開かないと言うぐらい大きく目を見開くアメリア様。
「アメリア様の魅力を、兄上に少し見せつけて上げましょう。そうしたらきっとすぐ正気に戻りますよ?」
エルアトスは今まで公務で出会ったどの姫に向けてもすることの無かった柔らかい微笑みを浮かべてそう提案した。
「この部屋を出たら僕の事は『アトス』とお呼びください、私の宝石姫アメ。」
そっとおでこにキス。
彼女の頬がみるみる可憐なピンク色に染まっていく。
これで正気に戻らない兄上なら知らない。
そこから先は、どうしようかな。




