41. 提案1
鈍く痛む。
瞼を開けるとそこは自室のベッドだった。
「アメリア様?」
覗き込んでくるサブリナの顔を見て先程の光景は夢だったのかと思った。しかし、彼女の後ろには少し顔色の悪いエルアトスの姿。
「エルカイル様は?」
アレが夢でないのなら、なぜ彼はここにいない?アメリアの脳裏に悪い予感がうず巻いた。
「兄は……カメリア姫の所に、行きました。申し訳ありませんっ、あんな状態の兄を連れて来るべきではなかった。」
エルアトスは深々と頭を下げる。
「エルアトス様、どうしてあんなことになったのです?説明してください。」
サブリナに手伝って貰いベッドから起き上がったアメリアは出来るだけ平静を装って尋ねた。
そのまま姿勢を崩さない彼に本来なら声を掛けるべきなのだが、今のアメリアにはそこまでの余裕はない。
「二日ほど前のことです。視察のために出かけた先で他国からの間者に襲われました。それ自体は難なく片付けたのですがその時に少々頭に怪我を負いました。深手ではなかったのでそのままにしておいたのですが、次の日起きた時には既にあのような状態でした。」
更に深く頭を下げるエルアトス。
「ごめんなさい。エルアトス様。椅子も勧めず失礼しました。」
「ありがとうございます。」
ホッとした表情をしたエルアトスはサブリナが用意した椅子にそっと腰かけた。
「いえ、あのような状態とは……記憶喪失なのですか?」
「記憶喪失と言うか……大まかな事は覚えていると言っていました。」
「おおまか?」
「以前カメリア姫と婚約し、それが本人ではなくアメリア様であったこと、そして婚約破棄したこと。そして今回アメリア様と結婚すると言う事。そう言った流れは覚えていると。でも、何故婚約破棄をしたのかは覚えておらず、寧ろ自分は初恋のカメリア姫と結婚したかったのに何故だと……その、父上に抗議をする有様で。」
初恋のカメリア、それは以前エルカイルに説明されていた事だった。幼い頃に偶然見かけた自分をエルカイルが侍女たちが呼ぶ名前の『カメリア姫』と間違えていたと。
でもそれは名前だけの話であり、再会した時にアメリア姫が彼の『初恋のカメリア姫』だとわかったはずだった。
「城の医者に見せたのですが記憶の混乱以外は何ら問題はなく、経過を見るしかないと言われています。」
「あの、エルカイル様は、私の事は覚えていらっしゃるのでしょうか?」
先程の彼の冷たい視線を思い出してゾクリとした。
「知識としては、アメリア様、カメリア姫の名前を意識していますが顔は思い出せないと、そう言っていました。だから会えば思い出すのではと思ったのですが……浅慮でした。」
きっと今の彼の中でアメリアは自分の指名した妹姫と入れ替わって無理やり自分と婚約を勧めているおかしな姉とでも思っているのかも知れない。
そんな表情だった。
「こんな状態では……結婚式など出来ませんね。」
折角準備してきた事だったが、当然今の彼と結婚式を挙げる事など不可能だ。
「それなのですが、父が大変怒っていまして。勿論ウチの兄に対してですが、二度もアメリア様に恥はかかせえられない。一週間で正気に戻らない場合は兄の廃嫡も厭わない状態でして……。」
「廃嫡ですか?」
「はい、その場合は僕が兄の代わりに王太子として、結婚式を挙げろと。」
「??」
恥ずかしそうにほんのり顔を染めるエルアトスにアメリアは首を傾げた。
彼に婚約者がいるとは初耳だ。
「ご結婚されるのですね、おめでとうございます。」
こんな状況だがもしかしたらなかなか結婚しない兄の手前、隠されてたのかもしれない。彼だけでも幸せになってもらえるなら嬉しいことだった。
アメリアはぺこりと頭を下げた。
「ち、違います。結婚するのは僕と、アメリア様です。」
「ええ?」
「父はもうアメリア様をルイタスの王妃に迎えること以外は考えられないと……だから王太子となって結婚するならアメリア様とだと言われました。」
エルアトスそう言い終わると、恥ずかしさのあまり片手で顔を覆ってしまった。
「私と、エルアトス様ですか?」
「はい。」
「ちょっと、想像が追いつかなくて……。」
「ですよね。」
「エスアトス様、婚約者様は?」
「いません。因みに好きな姫もいません。浮気もしません。」
問いかけると即答された。
そして、彼が嫌がっていないことに気が付く。
そんな簡単に結婚を決めてしまってよい筈がないのだが。
「あの、本気でしょうか?」
「すいません……兄の代わりが俺で。」
彼がポツリと応えた。
アメリアは口をぽっかりと開けたまま、天井を見上げた。
お盆ですね。
台風、大雨など要注意です!
お盆中もう少し続きを更新予定です。




