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35.王宮にて 2

お読みいただきありがとうございます。


 部屋は先程よりも幾分か照明が抑えられていた。


 アメリアを迎え入れてくれたのは、身支度もすっかり済んでゆったりと寛いだ服装になったエルカイル。やはり少しだけ顔色が悪い気がする。


「いま、エルアトス様と話していたのですが、エルカイル様に遅いかかってきた刺客達が毒の付いた小剣で自害したそうです。エルカイル様は彼らの剣で切り付けられていませんか?」


 彼らが自害するためだけに毒を用いたとは考え辛く、だからどうしても自分の目で彼の無事を確認したかった。


「大丈夫ですよ、あんな程度の奴らに遅れをとっていはいません。それよりもアメリア、貴方の方が随分顔色が悪い。」


 心配そうに顔を近づけられそのままそっと頬に手を当てあられた。

 先程までは熱を持っていた彼の手が今はひんやりと冷たい。

 そのまま撫でるように動く彼の手が気持ちよくてアメリアは暫しされるがままにしていたが、はたと当初の目的を思い出し慌てて彼の手をそっと掴んだ。


「ご、胡麻化さないでください。」


 アメリアはそのまま彼の手をそしてむき出しの腕を引き寄せると念入りに確認していく。先程まではうっすらと誇りまみれだった肌もすっかり侍女が綺麗にしてくれたようで、滑らかに整ったその肌には確かに目立った外傷は見つけられなかった。何故か先程と比べて少しばかり顔が赤くなっているが傷がないことを確認してアメリアはホッと安堵する。


 しかし服の下はどうだろうか?


「アメリア?」


 自分の顔を見つめていた彼女の視線がゆっくりと下に移動した事に気が付いたエルカイルが少しだけ首を横にひねった。


「服の下、見ても良いですか?」


 アメリアは彼にそう尋ねる言い方をしたが返事を貰う前にすでに動きだしていた。


 流石に立ったままと言うわけにはいかないので彼の手を引いてベッドへ座らせそのまま彼の上着をごそごそと開き始める。


 あまりの展開にそこまで抵抗と言うものを忘れていたエルカイルだったがようやく我に返ると自分のガウンを脱がそうとしている彼女の手をそっと抑えた。


「ちょ、ちょっと何しているんですか!」

「だから、怪我がないことを知りたいんです。」


 止められた手が不満のようでアメリアは少し頬を高揚させて彼を見上げた。

 その顔が彼を落ち着かない気持ちにさせているなどきっと彼女は全く意識してい無いに違いない。


 変な気を起こさないためにも折角部屋の入口で対応していたのに、気が付けば今はベッドで彼女に押し倒されがけている状況。何とかしないと危ういことには間違いない。


「怪我はしていません。」


 だから離れて欲しい。

 そう言えば簡単なのだが悲しいかな健康な男の自分が今の状況を喜んでしまってそのセリフが出てこない。いっそ押し倒されてしまいたいとさえ思ってしまう。


 そんな邪な考えが脳裏に浮かびエルカイルは少しだけ彼女から視線をずらした。



「じゃあ脱いでくださいっ。」


 目の前の男がそんなことを考えているとは想像もしていないであろうアメリアは彼に抵抗されたからと言って目的を諦めたわけではなかった。


「私に脱がされたくないのでしたら、ご自分で脱いでくださいませ。ダメなら少々はしたないですが服の中に手を入れて確かめさせていただきます。」


 抑えている彼女の手がじりじりと動き出そうとしている。


「わ、わかりました。脱ぎますから!少し離れてください。」


 慌ててそういうとそっと掴んでいた彼女の手を離しその手が動きださいないことを確認して自分がベッドから立ち上がる。


 そしてゆっくりとガウンとその下に来た長衣を脱いでいく。因みにズボンはこの範疇に入らないと決めた。





「どうですか?大丈夫でしょう?」




 恥ずかしさを隠すために少しだけ微笑みながら彼女を見れば、その顔を真っ赤に染めて下を向いている。


 ようやく自分が何をしていたが気付いてくれたようだ。



 彼女のその顔を見たエルカイルは少しだけ余裕が出来たので、少しだけ意地悪がしたくなってゆっくりと慎重にアメリアが座ったままのベッドへ近づいていく。


「気が済みましたか、俺のお姫様?」


 伸ばした手でその美しい青い髪に触れる。恥ずかしさから下を向いたままだったアメリアの顔ががゆっくりと起き上がり、しっとりと涙目のその瞳がエルカイルをじっと見つめた。


「怪我、してないですか?」

「していないでしょ?」


 優しく応えると彼女の手がそっと肌に触れた。

 突然の事にピクリと反応を返す。


「ごめんなさい、やりすぎました。」


 小さく謝罪を口にしてそのまま彼女の手がそっと離れていく。

 しかし何かを見つけた瞳が急に大きく見開かれた。


「その傷。」

「ああ、これは『あの海での事故』の時の物です。」



 既に塞がってはいるが右腹部に決して小さくはない傷跡が一つ。

 お婆が作った傷薬でも残ってしまったのか。



「傷、残ってしまったんですね。」

「あの夜の事は夢の様な出来事でした。貴方が人魚に見えた。」


 アメリアが落ち着くのを待ってエルカイルはゆっくりと彼女の隣に腰を下ろした。

 すると彼女の手がもう後しか残っていない傷口をそっと撫でてきた。


「あの日だけ、私は人魚になりました。」

「俺のため?」

「はい。貴方が助かってよかった。」


 傷口をなぞる彼女の手が暖かい。


「母に会いに、海の底に初めて行った日でした。人魚の力を使ったのも初めてで、上手く出来てよかったです。」


 褒めて欲しいのか少しだけ誇らしげに彼女は言った。


「初めて?あんな嵐の中を初めて泳いだのか?それも一人で?」


 慣れていない人魚の姿で、あの嵐を初めて泳いだ?人とは違うからと言ってもあの危険な海を一人でなど到底安全だとは思えない。


 なんて無謀なことをさせてしまったのか。


 エルカイルは動揺してつい声を荒げてしまった。


「ひ、一人ではないです。直前までは海の魔女様とソニンが一緒でしたから。お願い怒らないで。」



 怒られたと思ったアメリアはあわてて直ぐに言い訳をする。


「ああ、まずは『ありがとう』と言わなければならなかったですね。頭ごなしにすいません。」


 流石に言い過ぎたとエルカイルも反省した。


「それでも初めてなら他にもやりようがなかったのですか?私のせいで貴方が傷ついたら私は一生後悔するところでした。」

「ごめんなさい。」


 素直に謝るアメリア。


 そして、一緒にいたという海の魔女とソニンと言う人物の事が気にかかった。


「一緒に来た二人と言うのはとても強い方たちだったのですか?貴方を守れるような?」

「はい、海の魔女…お婆様はとても凄い方で、ソニンは人魚の王をしていますので……。」

「人魚の王?」

「私の従兄妹だそうです。だから私の事が心配でついてきてくれたんです。」


 王と言う立場の者が従兄妹とは言え一人の人間のためだけに同行した?

 それを聞いてうっすらと『何か』が意識の中を横切ったがその事を敢えてエルカイルは無視した。


「そろそろ寝ても良いでしょうか?折角ですからアメリアも一緒に寝ますか?」

「………帰ります。」



 話を切り上げるためにわざとアメリアにそう提案してみる。

 案の定彼女はすぐに座っていたベッドから立ち上がった。



「お話ししたい事がまだあったのですが、明日にします。」


 足早にドアへ向かう姿がなんとも可愛らしい。



「おやすみなさい。」


 彼女が出て行ったドアにそっと声を掛けて、流石に裸のままでは良くないと、エルカイルは上着を着るためにゆっくりと立ち上がった。



ブックマーク、☆評価ありがとうございます!

暑い日が続きますがお身体にはお気を付けください。

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