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31.とりあえずデート(ユータスの場合)

ちょっと長めです。


 今日はユータスとオペラ鑑賞に来ている。


 二人で出かける事などきっとこれが初めてだと思う。


 今まで何度か急に押しかけてきては連れ出されていたが、大体お付きの従僕や他所の友達と称したユータスの取り巻きさん達も一緒の外出で傍から見ればアメリアも彼の取り巻きの一人に見えていたかもしれない。


 でも今日は護衛の人が遠くからついてきているだけで実質二人だけのデートだ。ユータスもいつもとかっていが違うのか少しぎこちない感じで会場についてからも座席への移動の際や軽食のオーダーなどアメリアを気遣って細々とエスコートしてくれる。


「会場内はやけに冷房が効き過ぎのような気がするな。アメリア寒くないかい?」

「ええ、ありがとう。大丈夫です。ユータスもうろうろしないでソファに座ってください。」


 用意された席は個室で、座席はいわゆるカップルシート。


 案内された時は躊躇したが隣に立つユータスまで硬直していたから彼も知らなかったのだろう。小さく《殺される……》と呟いていたのがちょっと疑問だが。


 オペラの内容は今一番流行っている演目。

 幼馴染で小さい頃に結婚の約束をした男女、しかし二人が成人したとき男の前には運命の乙女が現れて、男は恋に落ちた。そしてそれに嫉妬した幼馴染の女性の醜い姿に呆れ、婚約は破棄。晴れて運命の乙女との婚姻を迎えるというお話。


 可憐な運命の乙女がけなげに嫉妬の悪意に耐え、男性への恋心を歌い上げるシーンでは会場からすすり泣く声が聞こえていた。


 演目が終わると一般席には直ぐに退場のアナウスが流れたが個室については観劇後に食事が提供される。どうせこの後、劇について話をするなどの為に別の店に移るのなら、その場とお食事まで提供しますという劇場側の配慮だ。確かに別の店へ移るよりもその場の熱が冷めぬままにお互い話をした方がより会話も盛り上がるので利用者にも好評だろう。


 しかし困ったことに今回のアメリアたちの場合はそこまで会話があるわけではない。

 お互い何となくふかふかのソファに座ったまま今は誰もいない部隊を眺めていた。


「今日はすまなかったな。わざわざ連れ出して。」

「いえ、皆さんとの約束ですから。」

「此間も、その前も。すまなかった。」



 神妙に謝罪を口にするユータス。

 しかし、アメリアは彼が何について謝罪しているのかが正直判らなかった。

 此間?調印式の乱入の事?それ以上前と言われても何のことだろう。


「先日の事なら、最終的にはこちらのお義母さまも苦言をおっしゃいましたので仕方ないです……。あの、その前とは?」

「君の国にこちらの軍隊が向かっただろう?」

「ああ、エルカイル様たちが対応してくれた件ですね。」

「幼い頃から何度も会っている君に初めて『断られて』しまって少々心が乱れてしまったんだ。反省している。」

「そうでしたか。気にしていませんので大丈夫ですよ。」

「そうか、気にしていないのか。」


 目に見えてユータスががっかりする。


 アメリアはそんな事だったかとホッとしてふんわりと微笑んだ。

 あの時は良い運動になったとエルカイルもパントバリウス陛下もお喜びだったのだ。






「お食事をお持ちしました。」


 劇場の給仕が食事をのせたワゴン押して入ってきた。

 綺麗に料理を机に並べ退出していく。




「さっきの給仕、先程の運命の乙女役の者だったな。」


 扉がきれいに閉じられてからそっとユータスが言った。



「ああ、やはりそうでしたか。似ているなと思ったんですよ。声を掛ければ良かったんでしょうか。」

「きっとそれもサービスの一環なんだろうな。」


 もしくは二人が王族だという事を知ってあわよくばお近づきになりたかったのかもしれない。


 しかし、アメリアは先程の演劇を見て彼女に同調していなかった事もあり目の前にいる人物をただの給仕としてしか見ることがなかった。結果彼女は何事もなく退室してしまったというわけだ。


「彼女は、きっとヒロインとして素晴らしい演技をしたんだと思う。でも俺は何故かあの初めから婚約していた女性がどうしても悪く思えなかったな。幼少期に婚約までしていた男が何故あんな突然ひょっこり現れた女を選んだのか全くわからない。寧ろ嫉妬した彼女に激しく同情するね。」


 ユータスは皿の上から前菜のゼリーをパクリと口に入れ白ワインを少しだけ飲む。


「そうですか?私は少しだけ男性の気分が判る気がします。」

「そうなのか?」

「幼少期に幼馴染だった二人でしたが、どう見ても一方的に勝気な女性が温和な彼を振り回していました。きっとからは『何となく』彼女と婚約したんだと思います。」

「何となく?」

「はい、子供の頃ってそんな感じかなと思いました。誰でもよかったというか選ぶ機会がなかったというか……。」


 アメリアはそこまで言って少し飲み物が欲しくなり、白ワインと主に置かれた水のグラスに口を付けた。冷たい水がゆっくり喉を伝う。


「ふーん。それであの乙女に出会って選んだってわけか。」


 ユータスはそんなアメリアを見ながらワインをまた一口含んだ。


「どうでしょうね。それよりも結婚しようとしていた女性があまりにも急に執着したので怖くなったのかも。」

「そりゃあするだろ。ずっと一緒にいるって思っていた男が急によその女に盗られるんだぞ?」

「うーん、当初彼女はそんなに彼の事が好きだったんでしょうか?。だって子供の頃の約束ですよ。成長しても親戚や兄妹みたいに暮らしてたんじゃないでしょうか。それなのに急に目の色変えて迫ってきたらかなり怖いです。」



「………そんなものか?」

「はい。」


 そこまでアメリアに言われてユータスはある事に気づいた。



「もしかして、アメリアもそう思ってる?」

「え?何がですか?」

「だから、急に俺が君に迫ったって、思った?」



 アメリアは折角だからと皿に盛られたサラダを口に入れようとしていたのではしたなくもそのままパクリとフォークを咥えて固まってしまった。





「私、ユータスに迫られたんですか?」


 



フォークを戻して呟いたアメリアにユータスは大きなため息をついた。


「ごめん。忘れて。」


 どうやら幼少期から何度もアピールしてきたつもりの好意は全くアメリアには届いていなかったようだ。確かに初めは父に人魚の血筋を手に入れるために近づけと言いつけられてはいたが全く好みでない女性には流石に好意を持つことは出来ない。彼女の周りをいつも自分と側近だけにしたのも彼女に好意を持つ虫を寄せ付けない為だった。





 だけどちょっと目を離したすきに、とても大きく強力な自分が駆除する事なんて出来ない厄介な『虫』が付いた。






「君はエルカイル殿下が好き?」


「そうですね。彼といると凄く幸せな気分になります。あと色々な所に連れて行ってくれて沢山の人と会いました。」



 虫をつけないために心配で彼女を囲ったユータスに対し、彼はアメリアに広い世界を見せた。


 それはきっと彼がユータスよりも心が強いから出来る事。

 そしてそれが、アメリア必要な事なのだ。



「じゃあ、俺の事はどう思う?」

「え?」



 驚くアメリアを見てそう言えば今まで彼女が自分の事をどう思っているのかなんて、そんな事すら考えたこともなかったと自覚した。


「えっと、ひどい言い方になるんですけど今までユータスの事を意識したことなくて……なんとなく時々来るお客さん?的な。」


 申し訳なさそうにアメリアが言った。


 なるべく柔らかい紙に包みましたというていだが簡単に言えば『どうでも良い人』ってこと。


「でも!」


 アメリアがなぜが先程より声を強くして続ける。


「今日お話をして、少しだけ仲良くなれたと思います。その……お友達くらい?」


 最後は少し控えめに戻ったが言い終わってからそれで良いかとお伺いを立てるようにチラチラとユータスの顔を見てくる。


「友達かあ。」

「ダメですか?」


 元々それ以上だと思っていたから、なんだか格下げの気分だが。

 実は今日を限りに二度と会わないと言われると思っていたのでそこはぐっと我慢するしかない。


 大体、これ以上彼女に近づけば今度こそエルカイル親子に殺されてしまう。


「じゃあ今日から友達ってことで。また遊びに行こうか。ガゼリアにも良い演劇があるんだ。招待するよ」

「そうですね。」


 アメリアが嬉しそうに笑った。


「あ、そう言えば結婚の申し込みは取り下げるから安心して。」

「はい。」



 二人はようやくテーブルに並べられたままの豪華な料理に向かい、本日成りたての友人同士の会食を本格的に開始した。

あと二人分(笑)

二人の目のデートは日曜に更新予定です。


頑張ります。

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