29.レイモンド
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「……おい、聞いてないぞ?」
「ああ、そうだね。」
隣に並んだユータスにボソっと小さく呟かれ、笑顔はそのままでレイモンドも小さく答えを返す。
……自分的にも、かなり予想外だ。
先日の祝賀会の会場で初めて出会ってからユータスとは思考が似ているようで珍しく話していて苦痛を感じる事がない人物だった。なので最近は数少ないレイモンドも友達である。
そのユータスが近頃纏わりつかれているのがパーティーで付添いをしていたクリークのカメリア姫。
外見は宝石姫と言われているだけあって可愛らしのだが内面は年齢以下のお子様だ。
当初レイモンドの周囲は年齢的にも釣り合うのでと彼女との縁談を考えていたようだったがあの会場で彼女に会いその幼稚な仕草に到底ありえないと即日白紙にした。
その彼女がユータスに手紙で伝えてきたのが正式に姉であるアメリアが婚約すると言う事。そしてユータスは彼女に結婚を申し込んで断られた過去がある為、ブツブツと文句を自分に垂れ流してきた。呼び出されてワインとつまみを食べながら初めは面倒な事に絡まれたと聞き流していたがそう言えば件のアメリア嬢はある噂がある女性だと思い出した。
「ねえ、アメリア姫は本当は人魚なのかな?」
「ああ、彼女は混血だな。実際何の力もないようだが美しいし気に入ってたんだが……しくじった。大体突然現れてアイツは……」
彼女と幼い頃から付き合いがある彼は彼女の事についてよく知っている様子だった。そしてユータスはまだ手紙の内容に随分ショックを受けているようで相手をしてくれるレイモンドに気を良くして知っていることをペラペラと教えてくれた。粗方聞き終わってもまだ話足りないのか侍女にお代わりを用意させワインを更にチビチビ飲みながらブツブツを何やら呟いている。
混血なのか……ではダメなのか?。
レイモンドは少し考える。
実は公国に伝わる伝説が一つある。
《人魚姫との婚姻はその永き時間を共に過ごすために永遠の命を伴侶に与える》
あくまでも伝説。皇室を遡ると遥か昔にその様な婚姻があっとされているが勿論そんな人物は今皇室内にはいない。
元々存在しないのか、消えたのか。
そう言えばめったに国外に出てこないと言われているクリークの国王は随分見た目が若いと聞いたことがある。ありえないと頭は理解しつつも興味が湧いた。
「ユータス、ちょっとだけ覗きにいかない?」
ほんのり酔ったユータスは面白そうだと笑った。
そのまま駆けつけた会場で、まさかそれがこのような事になるとは。
「……異議を認め、この度の調印は一時見合わせます。」
「長い人生のお相手になる方なんだからゆっくり検討なさい。」
何故だか通ってしまった主張に異議を申し立てた自分たちが一番困惑している。そして目の前に並ぶ両国の顔ぶれを見てレイモンドは更に目を見開いた。
クリークのラウール国王はかなり若い。
かなり若作りはしているが隣に座る王妃が実は陛下の母親なのかと思えるほどだ。確か彼の年齢はルイタスの国王とそんなに遠くないと記憶している。対面に座るパントバリウス様は年相応の外見なのだから、やはり彼が異様に若いと言う事になる。
レイモンドは改めてこちらを驚愕の顔つきで見つめるアメリアに視線を合わせた。
彼女とはあの祝賀会で挨拶をした時以来一度も会っていない。
だから当たり前だが好きとか嫌いとか、そう言った感情は全く持っていないわけで……むしろ痛い程つき刺さってくる彼女の隣の彼の視線の方が気になるばかりだ。このまま無事帰れると良いんだけど。
「ユータス、俺はそんなつもりは無いぞ?見ろエルカイルだけじゃなくアイツの親父と弟に今すぐ殺されかねない目で見られているのに気が付かないのか?」
「ん……君だけでお願いしたいかな?」
「俺は連れて来られただけだぞ、ほらさっさと謝れよ。」
動揺しているのは判るが自分よりかなり年下相手にぼそぼそ呟きながら、肘でわき腹をつつき回すのはやめて貰いたい。
大体、今更この場で実は嘘ですと言って事態は好転するとは思えない。寧ろ逆効果だ。
更に一つ確かめたい事が出来た。
あのラウール国王の若さが人魚との婚姻によるものなら、それはとても魅力的な事だ。
俺は彼女との婚姻にかなり『興味』が湧いた。
どうせなら少しだけ踏み込んでみようか?
彼らの逆鱗に触れているのはもう明らかで……まあ、だからと言って直ぐに殺されるような事はないだろう。
なにせこちらには友人である大国ガセリアの王太子という生贄がいるのだから。




