28.調印式
ここから第二章です。
よろしくお願いします。
「お嬢様、もうすぐルイタス御一行がいらっしゃる時間です。」
「わかったわ。」
今日は改めてエルカイルと婚約を交わす調印の日。
前回は妹のフリをしてと言う事で後ろめたいこともありアメリアが身一つでルイタスに向かったが本来は両家の見届けの元、教会が用意した書類に婚約の署名をするのが習わし。
(前回は既にエルカイルの署名入りの書類がクリークに送り付けられていたのでカメリアが事前に署名だけしていた。)
今回は正式な手順を踏みたいとルイタス側から申し出があり、本日クリークの城にてその調印式を行う事となった。
あの日から何度かお互いの国間で調整をして、アメリアとエルカイルは今日、正式に婚約者となる。
クリーク側はラウール父王と義母の王妃、そしてカメリア。
ルイタス側は王妃様はすでに亡くなっているのでパントバリウス陛下と弟のエルアトスの二人が立ち会いに来る。
内輪だけのお式と言う事だが流石に相手国の王をお迎えするとあって朝から城内は何やらソワソワ。
アメリアも朝から緊張して少しの食事と水を飲んだだけで既に胸がいっぱい。
侍女たちに用意された薄桃色のドレスを着せられ念入りに身支度をさせられた彼女のもとに一対の大ぶりなイヤリングが用意された。金の台座にピンク色の大きな宝石が入ったそれはとても美しく、勿論自分の持ち物ではない。
「エルカイル殿下から本日身に着けて欲しいとの伝言を受けています。」
アメリアはイヤリングを手とりそっと見つめてそのまま自ら耳に付けた。鏡で見ると耳元でキラキラと輝いている。
「とてもお似合いです。」
「ありがとう。」
外ではエルカイル達が到着したと門の兵士が声高に告げていた。
調印式は簡単なものでお互いが一枚の紙に署名をするだけ。
書面はあらかじめ教会より取り寄せて署名後教会に保管依頼を出しても良いのだが、今回は立会と祝辞を述べたいとの事で牧師が自ら持参してくれている
城内にある小さな祈りの間に両家が向かい合って揃い、中央の教壇には牧師。
「では両家がお揃いのようですので、調印の義を始めましょう。アメリア様、エルカイル様こちらの書類にご署名ください。」
かたん。
小さく二つの椅子がひかれる音が室内に響いた。
二人は緊張からお互い無言で立ち上がり壇上へと移動。そして署名するために用意された羽ペンに手を伸ばして、意図せずお互いの手が触れてしまった。
「あっ」
「す、すまない」
「おやおや、お急ぎにならなくてもこの書類は消えてはいきません。」
顔を赤く染めて言葉を発した二人を見て牧師がにこやかな笑顔を作った。
「では初めルイタス国のエルカイル殿下からお願いします。」
頷いてエルカイルがペンを握る。
その時だった。
バタン!
「ちょっと待った! その婚約意義あり!」
式のために閉めてあった入り口のドアが開く音と共に背を向けている方向から聞き覚えのある声が聞こえ、アメリア達は思わす後ろを振り返った。
……そこには案の定、見知った人物がいる。
それも何故か二人。
「ユータス殿、そしてレイモンド殿まで……貴様ら何しに来た?」
地を這うような低い声色が隣に立つエルカイルの口から漏れる。
「この婚約に異議を申し立てに来たんですよ?聞こえませんでしたか?まだ署名前だったようですね間に合いました。」
良かったですと言いながらレイモンドがアメリアを見てニコリと笑った。
「確か婚約にあたって異議を唱える者が二人以上いる場合はその是非を協議する場が設けられるはずですよね。だから協議してください。私とユータス殿もアメリア姫をお慕いしています。」
「……ああ、そうだ。」
ニコニコ微笑むレイモンドの横でユータスが複雑な顔をしながら頷く。
確かにそのような措置は存在する。
でも、あくまでも定型の条項であり彼女が知る限り今まで異議を唱えた者など聞いたことがない。
アメリアは不安になり隣のエルカイルを見上げた。
すると気が付いて彼が小さく大丈夫だからと呟いてニコリと笑った。
「貴殿らはあの条件は《親族》からとの文章が入るのを知らないようだな。勉強不足だ退場しろ。そうだな、ロキ牧師。」
「はい、少なくとも一名の親族からの異議がなければ成立しません。」
ロキ牧師の言葉を聞いてエルカイルが勝ち誇ったように口角をあげた。
「では式に戻ろう……。」
「なら、私も異議を申し立てます。」
凛とした声色が室内に響き渡った。
「ユリ王妃様……」
アメリアの視線の先には片手を上げている義母の姿かあった。
「王妃、何を言っているんだ?やめなさい。」
「いえ、私はこの婚約の再考を求めることに同意します。」
王に制止をされるが頑なに彼女は主張を続けた。
「アメリアさん、好意を寄せてくださる方が複数いらっしゃるなんて羨ましいことね。貴方の長い人生のお相手になる方なんだからゆっくり検討なさい。」
「ロイ牧師……?。」
ありったけの救いを求めてアメリアは彼を見つめた。
しかし聖衣に身を包んだその男は申し訳ないと目を伏せてゆっくり首を左右に振る。
「……異議を認め、この度の調印は一時見合わせます。」




