26.祝賀会で
いつもお読みいただきありがとうございます。
主催者である王家への挨拶を済ませて二人は軽い飲み物をいただいていた。
そしてその周囲には様子をうかがう人達が遠巻きに覗いている。
これはアメリアとエルカイルの事は皆知っているという事で決まりだろう。だからこそ婚約破棄したのだから何故パートナーとして出席しているのかが不思議という感じだろうか。
一応、主催である公国の大公夫妻には挨拶の際に国交を回復しましたと軽く説明をしたがそれをここであからさまに言うのも無作法だ。二人の雰囲気を見て察して欲しいところだが。
「お姉様、やっといらっしゃいましたのねぇ~。」
軽く赤い顔をしたカメリアが、ぐるりと取り囲まれた人の輪の中から気まずい顔をしたユータスを引き連れて現れた。
「あら、カメリア。お待たせしてしまったのねごめんなさい。」
「ユータス様が一緒だったので少しお酒も頂いちゃいましたぁ。」
カメリアは近くに寄ってくるとニッコリ笑う。
クリークの宝石姫と呼ばれる二人の姫が揃ったことにより、周囲の生ぬるい空気がすこしだけ和らいだ。
「アメリア嬢、……久しぶり。」
「ああ、ユータス様。お久しぶりです。随分お会いしていない間に随分色々されたようで……ご無事で何よりです。」
「いや、すまなかった。まさか貴方がカメリア嬢の代わりにルイタスに行っていたとは思わず、会ってもくれずにあっさり結婚の申し出を断られた事に心が傷ついてしまい『つい』頭に血が上ってしまったのだ。」
「まあ……そうでしたか。」
もしアメリアがクリークにいたとしてもその申し出にはあっさり断ったのだが今はそれについては触れない方が良いだろう。
「所で、ガゼリアのエルカイル殿下との話は白紙になったと聞いているが?」
ユータスはちらりとエルカイルに目をやった。
「ああ。カメリア嬢との婚約だったからな。人違いとわかったので白紙にしたよ。今はアメリア嬢とは友人からやり直している。」
ユータスのお手柄というべきか丁度良い方向に話が流れてエルカイルの口から今の状況の説明が出来た。
「おや、何やら人が集まっていると思えばクリークの宝石姫のお二人でしたか。やはりお揃いで並ぶととても目を引きますね。お美しい。」
声を掛けてきたのはバチェリ公国の王太子のレイモンドだった。彼は今年公国の王家として成人をし二十歳になったばかりなのだが随分大人びた男性のようでアメリアの近くに来るとそっと手を取って優雅に挨拶の口づけをしてきた。
「先程は軽い挨拶程度でしたが、折角のご縁です。これからは仲良くしてください。」
「……ありがとうございます。」
唇は直ぐに離れていったがなぜが添えられた手はそのまま。寧ろ軽く掴まれている。優雅に見つめられる視線と共にやんわりと支えられ続ける手元を強引に振りほどくわけにもいかずアメリアは動かせない手をプルプルとさせているのだが公国の王子は全く気にしていないようだ。
「あの……レイモンド様、手が……。」
「あ、失礼しました。あまりにお美しいのでこの手が別れを惜しんだようです。」
仕方なくアメリアが小さく問いかける。
すると今気が付いたかのような仕草でレイモンドはアメリアから手を離した。
アメリアの横ではカメリアが次は自分の番だと言うばかりにニコニコしている。
「カメリア様もようこそおいでくださいました。」
「……ありがとうございます。」
しかしレイモンドはカメリアに向かっては軽く会釈をし、声を掛けただけ。
アメリアの時とは違い軽く挨拶が終わってしまいカメリアは少し不満そうだった。
「それよりもユータス、君は確かアメリア嬢に求婚をしたと噂があったが間違いだったのか?妹君のエスコートとは驚いたよ。」
明らかに機嫌を悪くしたカメリアの隣で彼女をなだめているガセリアの王子に向かってレイモンドは砕けた口調で声を掛ける。
「いや、カメリアとはそういう関係じゃないよ。アメリアには求婚したけど一回断られちゃったし今日のエスコートは先にエルカイル様に決まっていたからね……。」
まあ諦めてないけどね。
そう言ってユータスは苦笑する。
「そうか、じゃあ今の彼女にはまだ婚約者はいないんだね。実は今日のパーティーで婚約者候補を探せって言われてるんだ。」
そう言って意味深に見つめられ、アメリアは驚いて瞳を大きく見開く。
金色のサラサラした前髪の奥にあるレイモンドの深いグリーンの瞳がじっとアメリアを捕える。
アメリアはこの祝いの場でどのように言えば場を乱さずに断りの意味を伝えらえるのかと頭をフル回転させていた。
「レイモンド殿、申し訳ないが今私も彼女を口説いている最中だ。」
「おや、確かエルカイル殿下は先にアメリア嬢と婚約破棄をされたと記憶していますが?」
「……アレは《カメリア》との婚約を破棄したのだ。アメリア嬢本人とはまだ何もしていない。」
レイモンドの芝居がかった言い方に気分を害したのかエルカイルはいつも以上に無表情になっている。
「はっ、それは屁理屈というのではないですか?大体カメリア嬢がお好きなら彼女と改めて婚約なさればいい。」
「ああ、俺もそう言った。」
レイモンドが呆れたように言うと、ユータスも便乗してうんうんと頷いている。
「……人違いだったんだ。俺が探していたのは《カメリア》ではなかった。」
それだけ言ってエルカイルは黙ってしまった。
「……そうですか。じゃあ私はそろそろ他の方達にも挨拶に行きながら自分の相手を探す事としましょう。皆さん今日は祝いの席ですから楽しんでください。」
(もしかして、アメリア様のあの噂は本当なんですか?)
レイモンドはニコリと笑いそっとエルカイルに耳打ちして去っていった。
そのままカメリアとユータスもその場を離れてしまったので残ったのはアメリアとエルカイルだけになった。
「エルカイル様、庇って頂いてありがとうございます。」
アメリアは突然のことに上手く断る事が出来なかった自分を助けてくれたエルカイルに御礼を言う。
「ああ、気にするな。本当の事しか言っていない。少し疲れたので外の空気を吸いたいのだが、庭園に出ても良いだろうか?そんなに長い時間ではないが君はここにいるか?」
「いえ、私もご一緒します。」
招待客のために解放された庭園は至る所にキラキラ光る照明が用意され夜の幻想的な空間を作り出している。
二人は会場から少し離れたところにある水辺のベンチに腰かけてその池に浮かぶ月を見ていた。
「カメリアは初恋の人なんだ。」
ぽつりとエルカイルが言った。
「え?」
あまりの唐突な告白にアメリアは息をすることすら忘れてしまった。
もしや先程のレイモンドとの事に助け船を出したのは良いが勘違いするなと言う事だとうか?そして同時にこれは改めてフラれていると言う事で……。
アメリアの視線がだんだん下に向いてしまう。
「正確には《カメリア》という名前の女の子だと思っていた。子供のころの勘違いだ。」
「勘違いですか?」
「一度だけ、幼少期にクリークに行ったことがある。その時に庭で寝ている少女を見つけたのだ。彼女は美しい青い髪だった。一目惚れだな。」
いつの事かは判らないがクリークの城に入る事が出来る青い髪の子供は自分以外にいただろうか?
「カメリアと侍女が呼んでいたのが聞こえて………そう思っていた。だからクリークに婚礼の申し込みをすると言われてカメリア姫を指名したんだ。」
エルカイルがアメリアの手にそっと自分の手を重ねた。
レイモンドに触られた時はどうやって振りほどこうかと言う事ばかりを考えていたのに今はそんなことを微塵も感じていない。
「でもまさか別人が《カメリア姫》を名乗って嫁いでくるとは思わなかったよ。」
重ねわれた手の下でピクリとアメリアの指が跳ねた。しかしエルカイルの手は離れようとなしない。
「現れた君は俺の記憶の中にある少女がそのまま成長した姿だった。疑う事なんて無かったよ。」
クスっと笑う気配がした。
月明かりに照らされて美しく微笑む澄んだ瞳がじっとアメリアを見つめる。
「君は、はじめから身代わりなんかじゃなかったんだ。」
「………。」
あまりの展開に思考がついて行かない。
「はじめから、私だったんですか?」
「そうだね。」
「でも婚約破棄しましたよね?」
「ああ。カメリア姫との婚約は破棄した。因みに父の許可も取っている。君は父のお気に入りだ。」
重ねられただけだった手はいつの間にか彼の手に強く握られていた。
「もう一度君に結婚を申し込んでも良いか?」
「………。」
婚約破棄されて
でも、忘れられなくて
だから自分だけでも好きでいようと思っていた。
「ダメです。」
アメリアの一言に、今度はエルカイルの呼吸が止まった。
それとは対照的に彼女の顔が今夜誰よりも美しく優しく微笑む。
そして告げた。
「今度は私が結婚を申込むんですから。」
まだ、続きます。




