25.祝賀会当日
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祝賀会当日。
バチェリ城の馬場には二台の豪華な馬車が止まっていた。
招待客ごとに指定された場所があるので他の客の姿はない。
金色の房が美しい鞍を乗せる白馬達が引く馬車にはガセリア旗が。
そして、青い布地に白い模様の布を纏う引き締まった身体の黒馬が引く馬車はルイタスの旗がそれぞれヒラヒラと舞っている。
「エルカイル様お久しぶりです。その後お加減はいかがでしょうか?」
「ああ、貴殿に貰った薬が良く効いて、すっかり全快したよ。」
「それは、それは。こちらの手違いとはいえ国王様と共にお身体を崩された時は大変心配致しました。このような場でまたご一緒出来て光栄です。」
各々の馬車から降りた王子二人は表面上の生暖かい挨拶を交わして自分たちの相手が馬車から降りる準備が整うのを待ち構えていた。
暫くしてパタンと馬車の扉が開く音がした。
ガゼリアのユータスがすかさず馬車の元まで歩み寄り手を差し伸べる。
「ユータス様お待たせしましたぁ。この髪の結い方可愛いですかぁ?」
「ああ。良く似合っているね。急に馬車の中で整えたとは思えない位素晴らしい。後で付添いの侍女も褒めてあげなくてはね。」
到着間際になって髪型が気に入らないと駄々をこね始めたカメリアに同行していた侍女が急遽アレンジをしたのだ。どうやらこういった事はよくある事のようで作業自体はスムーズに行ったようだった。馬車の中から侍女がそっと顔を出し待たせてしまったことを詫びるように頭を下げている。
「あ、エルカイル様ですね。お久しぶりです。お姉様はまだ馬車なんですか?パートナーをお待たせするなんて……姉の事とは言え申し訳ありません。」
自分が今までユータスを待たせていたことなど全くなかったかのように言うカメリアにエルカイルはフッと小さくため息をついた。
「ああ、いま彼女は同行してきた侍女を介護しているんだ。直距離の移動で具合を悪くしたらしくてな彼女の着衣を緩める手伝いをして手持ちの薬湯を飲ませているんだ。」
「まあ、そんな事のためにエルカイル様を待たせるなんて……。」
口に手を当てて大げさに驚くカメリアにエルカイルはやはりこの娘ではありえないなと心の中で冷笑した。大切な侍女を放り出して祝賀会へ行こうとしないアメリアだからこそ自分は惹かれたのだ。
エルカイルは目の前でソワソワと城の入口をチラ見しているカメリアに向かって感情のない笑顔を向ける。
「すまないね。《こんなこと》で君たちを待たせるのは悪いからさっさと入場してくれて構わないよ。もし知り合いがいなくて心細い様なら後で会場で合流しよう。」
「え、そんな……そうだ!ならこのままエルカイル様も一緒に行きませんか?姉様は後からゆっくりと……」
「そんなことは君には関係ないよね?気にしなくていいよ。カメリア嬢。」
「えっと私、もっとエルカイル様とも仲良くなりたいんです!」
「そうだね、カメリア。僕たちだけ先に行こう。アメリアとエルカイルは後から会場で会えばいいよ。」
カメリアが他にも何か言いはじめる前にユータスがグイっと彼女の腕を少々強引に引っ張った。ぐらりと彼女の体が傾くがそれをそのまま支えて入口方向を向く。
(彼女はなぜ彼のあの今にも剣を抜きかねない冷たい視線に気が付かないのだろうか。)
ユータスは一秒でも早くこの場から立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。彼が一言発言するごとに周囲の温度が一度ずつ下がっているのかと思えるくらいに背筋が寒くなって今でも背も向けているのに痛い視線を感じる。
「エルカイル、また後で。」
「え、ユータス様……。」
「お待たせしました。エルカイル様。やっとリリーヌが落ち着きました。」
「ああ、お疲れ様アメリア。やっとその美しい顔を見られて心底ホッとしたよ。」
「あ……随分お待たせしてしまったのですね。ごめんなさい。」
エルカイルに手を添えられて馬車を降りながらアメリアは自分のせいで彼を疲れさせてしまったと思い、深く謝罪をした。気が付けば一緒に行くはずだったカメリア達はもういない。きっと遅いアメリアを待ちきれずに先に言ってしまったのだろう。
「すいません。お一人で待たせてしまって……」
「ああ、気にしなくていい。一人の方が気が楽だったので、私が彼らを先に行かせた。」
「そうでしたか。」
アメリアは安心したのかホッと息を吐くと、少しほつれた髪型をそっと指で直した。。
彼女のその仕草を見てエルカイルは眩しそうに目を細める。
「しかし、君の妹君は………大変個性の強い姫だな。」
「まあ、もうカメリアは何かしてしまいましたか?」
口元を片手で隠しながら少々苦笑気味に言う彼を見てアメリアは直ぐに妹がやらかしたことを悟った。
何か粗相をしてしまったのだろうか?心配になりそっと隣の彼を見上げる。
「ああ、すまない。あんなことより君との時間の方が大切だ。」
「あんなこと……?」
「いや、さあそろそろ時間だし中に入ろう。」
首をかしげるアメリアの手にエルカイルはそっと腕を差し出す。
彼女の手がそっと自分の腕に触れる。
それだけでも先程の煩わしかった気分がさっと晴れていく。
ああ、やっぱり彼女が良い。
この先どんな女性と出会う事になってもきっと彼女以上の存在には出会えない。
だからこそ、これからやり直すのだ。
「アメリア、今日は来てくれてありがとう。」
「はい。声を掛けて頂いて……嬉しかったです。」
会場の入口まで来て入場待ちとなりエルカイルがそう囁くとアメリアもそっと返事をかえした。
少し顔を赤くしたアメリアがとても可愛くてエルカイルは思わず目を細める。
「国交回復の政治的な御誘いでも、すごく嬉しくて。私頑張りますので。」
「そう………え?」
うっかり相槌をしそうになって慌てて聞き返す。
「婚約破棄されたのに………こうしてパートナーとして呼んでいただいて大変感謝しています。」
目尻をほんのり赤く染めて嬉しそうに語る彼女を見て何と言い返して良いのか、エルカイルは暫し口を開けたまま彼女を見つめる。
そんな時、丁度二人の入場の番が来てしまった。
「アメリア。兎に角、後でゆっくり話そう。」
「そうですね。」
アメリアは今日一番の笑顔でニッコリと微笑んだ。




