22.母
慣れない人魚の力を使ったアメリアは人魚の城から出られないでいた。
人魚と人間の混血のアメリアが薬の力で増幅されたとはいえ使った人魚の力は彼女の持つ人魚のそれ以上に人間の生命力まで吸い取ってしまったらしい。そのため失ったものを元に戻すため今は人魚の王であるソニンの側で治療を受けている。
本来なら翌日には帰るはずだった地上への帰還はもうすでに三日ほど延び、更にもう少しかかりそうだ。父王へは婆様が地上での用事のついでに連絡をしてくれた。
「すまないね、アメリア。君への治療に私の全ての力を使いたいのだが、王としての務めも大切なんだ。」
「わかっています。皆さんへ力を注ぐ事が出来るなんて素晴らしい王様のお仕事ですから勿論頑張ってください。それが終わってもし余ったら私におすそ分けしてくれれば良いんですよ。私は急いでいませんから。」
地上に戻っても今は特段急ぎすることもない。しいて言えばエルアトスから借りている本の続きが気になるが、それもきっと彼なら笑ってくれるだろう。
あの後、エルカイル達ルイタスの一団がどうなったのかを地上の人間に調べて貰ったらあの海域を超えた先にある国と少々会談を終え、その帰路だったのだという。ほとんどの者が海から無事に生還し彼らは今帰国の途にあるらしい。
みんな無事でよかった。
アメリアはその報告を聞いてホッと胸を撫で下ろした。
「ところでアメリア、君はここに住むつもりはないかい?」
「ソニン?」
王の勤めから帰ってきたソニンに雑談をしながら治療を受けているとそんなことを聞かれた。
「どういう事ですか?私は人間で、海中には住めませんよ?」
「ああ、でも君の内面に溢れている魔力は海の物に相性が良いようだ。自分でも感じたことはないか?」
そう言われれば確かに昔から海の近くに行くと心が落ち着くし、親しみも感じる。そういう事なのだろうか。
「今なら人間の気配が削られて薄まってしまっているからそれを人魚の魔力で補えば君はここで暮らせると思う。どうだろう?私の側は案外心地いいと思わないか?」
見上げるとソニンの瞳が艶やかに煌めいている。
………流石のアメリアにもその意味が分かった。
彼女が口を開こうとするとそっと人差し指をあてられる。
「直ぐに、返事はいらない。明日にはエイミイ叔母が目を覚ましそうだからね。彼女に相談すればいい。」
「………お母さまが?」
「ああ、君が来た事が嬉しかったのかもしれないね。」
ソニンはそっとアメリアのおでこに口づけを落とすと優雅に部屋を出て行った。
朝になりあまり眠る事が出来なかったアメリアのもとへこの城で身の回りの世話をしてくれている人魚と共に婆様が姿を現した。
「婆様おかえりなさい。地上はどうでしたか?」
「ああ、ラウール王にはもう少し海底にいると伝えたよ。それとエイミイが起きることも教えた。」
「父に言ったんですか?」
既に今は別の女性を王妃に迎えている父にとってその報告はどんな意味を持ったのだろうか?
「いつか戻ることは教えてあったからね。それに、長い年月がかかるとも。予想外の事にとても驚いていたが嬉しそうだったよ。」
「そうなんですね。」
アメリアは軽く身支度をして立ち上がる。
「そろそろソニンが真珠に力を注ぐ時間だ。おそらく今回であの子は起きるはずだよ。行くかい?」
「はい。」
神殿に行くと入口に護衛の人たちがいて既にソニンは到着していた。真珠から本来の姿に覚醒する兆候が見られるとその身内の者が呼び寄せられる。覚醒の瞬間は身内だけの対面となる為、今はソニンとアメリアと婆様だけが神殿に入ることが出来るとの事だった。
既に用意されていた母の真珠はほんのり金色に輝いていた。
「綺麗な色だろう? 覚醒前の真珠はこのように輝いて早く早くと催促するのだ。」
ソニンは嬉しそうに言った。
「王になって面倒な仕事を沢山押し付けられたが、この瞬間だけは自分の仕事に喜びを感じるよ。」
彼はそう言って真珠にそっと口づけを一つ落とすとそれをふわり頭上に浮かせた。
「エイミイ叔母上、起きてください。アメリアが来ていますよ。」
特別な呪文を唱えるでもなく、ソニンは手を広げてそう語りかけた。そして暖かなオーラがその場を包み込む。それに応えるように真珠が徐々に光を強めていく。そしてついに辺りが白くなる程の光を放った。
あまりに光に一瞬瞼を閉じたアメリアが次の瞬間目を開けるとそこには絵姿でしか見たことのない母の姿があった。
「もう少しゆっくりするつもりだったけど、ソニンは優秀ね。ありがとう。アメリア、抱きしめても良いかしら?」
エイミイはそう言うとそっと両手を広げた。アメリアは迷うことなくその両手の中に飛び込んだ。
「お母さま。」
母に捨てられたと思っていた幼少期、最近になってそうではないと分かり更には会うことはできないが生きていると言う事も知った。
それが今は目の前にいて自分を抱きしめてくれている。
「大きくなったわね……時折貴方があの館に来ていた時に婆様がこっそり真珠の私を持ち出して貴方の成長を見せてくれていたの。でも、こんなに早く抱きしめられる時が来るなんて思っていなかった。」
幼い頃、父に定期的に館に行くよう言われていたのはそういう事だったのか。
ソニンを見ると困ったような顔をしてお婆を見ている。
「………持ち出しは許可していませんが?」
「知らなかったんだろ?諦めな。」
お婆がニヤリと笑った。
「もうやらないよ。する必要もない。」
母に抱きしめられてその顔は見ることはできなかったが、ソニンが深くため息をついた音が聞こえた。
「ふふ、相変わらずソニンは婆様には敵わないわね。」
そう言って、母はクスクスと笑っていた。
この母様、割と若い設定です。姉妹位な感じ。いつか設定公開したい(未定)
明日も更新予定です。




