21.海上
よろしくお願いします。
婆が指し示す道暗い海の中を三人はゆっくりと泳いでいく。
はじめ城を出て辺りが真っ暗な海であることに、そしてその中を進む事に強い不安を感じていたアメリアだったが、すぐにそれにソニンが気付いた。彼は不思議なランプを用意してくれてそのキラキラした明かりが辺りを照らし始めるといつの間にか不安はすっかり消えていた。
「あの先があの王子の近くへつながっている様だね。」
婆は海域の先を指さした。
「流石に海上に出て人間と直接関わることはソニンは出来ないから、婆とソニンはここまでだ。ここからはアメリアだけしか行けないよ?波は岸と反対へ向かって流れている。彼を見つけたら波に逆らって泳いで行くんだ。」
「わかったわ。」
「人魚を隠しているわけではないが、その姿を多くの人間に晒すのは今後の為にも避けた方が良い。人目につかない岸に彼を届けたら直ぐに海へ帰ってくる方が良いだろう。我々は直ぐ近くにいる。」
確かにこの姿は一時の仮初なのだうっかり知り合いの騎士にでも見られた後々厄介な事になるかもしれない。アメリアはゆっくりと頷いた。
「この小瓶の薬は私がさっき作った傷薬だ。飲ませれば大抵の怪我は治す事が出来る。」
婆に渡された小さな小瓶を握りしめてアメリアはふわりと浮き上がった。上層が大きく揺れているのが分かる。
そこに黒い大きな影が見えた。
(エルカイルだ。)
アメリアはその人影めがけて一気に浮き上がった。
近くを流れていた木片に手を伸ばしたら届いた。薄れゆく意識端でアレにしがみ付かねばならないとそう思ったことは覚えている。
今、真っ暗な闇のなかにいるのは自分だけだった。
いつまでこうしていれば良いのだろう?
遠くに灯が見えたのは随分前の事だった今はどこにもそれが見えない。恐らく沖へ流されている。
泳ぐ気力もとうに失われ、先程大きな尖った物が腹部につき刺さり、今もそれは刺さったままだ。慌てて抜こうかと思ったが海の中での出血は良くないと思いやめた。しかしこのまま漂流するのならいっそ抜いてしまい全てを終わらせてしまおうか?
ああ、アメリアは今どうしているのだろう。
折角すべてを終わらせたら改めて求婚に行こうと思っていたのに。
わざわざクリークのラウール様に求婚の願いを書簡で出し、他者への牽制としたのだがそれも必要がなくなってしまった。
「最後に彼女を抱きしめたかった………。」
エルカイルはあの美しい青い髪の少女を最後に抱きしめた事を思い出した。
ぴちゃん
近くで魚が跳ねた。
エルカイルの流した血が何かを呼んだのかもしれない。
するするとその小さくはない影が近寄ってきた。
すると真っ黒だった海の水がほんのり青く色づく。
影はすぐ側で止まった。
「エルカイル様?」
聞き覚えのある声に自分の耳を疑った。
「アメリアなのか?」
「はい。今お助けしますので……驚かないでくださいね。」
近寄ってきたアメリアは以前に比べて少し痩せた印象だった。ほっそりとした腕でエルカイルがしがみ付いている木片の端を持つと波に逆らい優雅に泳ぎ始める。既に体力が限界であったエルカイルは彼女の再会した事で気が緩んだのかそのまま気を失ってしまった。
「きゃあ!エルカイル様、沈まないで……!」
………遠くで焦る彼女の声が聞こえた。
次にエルカイルが目を覚ました時には、ひと気のない海岸だった。
近くには空の小瓶が転がっていた。
「アレは夢だったのだろうか?」
朝焼けの美しい海岸で波打ち際、アメリアがくれたキス。
『これで全部治りますから。』
ふと見れば何かが海中で刺さったはずの腹部には大きな穴が軍服に開いているだけ。
小さな傷も消えていた。
「………アメリア。」
エルカイルはキラキラと光る海をじっと眺める。
最後に残ったのは、彼女への更に募った恋心だけだった。
もう少し海中編続きます。
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