15.万能薬
予告通り、連日投稿です。
昨日の分をお読みでない方は一つ前からお読みください。
お読みいただきありがとうございます。
「海の魔女特製の万能薬です。」
机にそっと置かれたキラキラと輝く小瓶。この国に来る前に海の魔女より貰い受けたその薬瓶には青い海の様な色の液体が入っている。
彼女はこれを百年に一度作る事が出来る【万能薬】と言っていた。
魔女はアメリア自身が、万が一の時に使うためにと持たせてくれたかも知れない。一回使えば終わってしまうそれを、彼女は今迷うことなくエルカイルに差し出した。
アメリアは今度こそは間違えたくなかった。
「万能薬?それが?」
エルカイルがそっと小瓶を取り上げた。青い、キラリと輝くまるで海の様な液体は少しアメリアの髪にの色にも似ている。彼はそのあまりの美しさに思わず目を細める。
「はい、百年に一度しか作れないと言っていました。私が持っているのこの小瓶一つです。ただ、恐らく一人分かと。」
「……そうなのか。」
ずっと保管しておきたい程美しいそれが、一回でなくなってしまう事にエルカイルは少し残念な声を滲ませた。
しかし、その声を聴いたアメリアはそうは思わなかったようだ。
「すいません、足りないですよね。後は私の血は……効果があるかは判りませんが必要ならお渡ししますので……。」
アメリアはデスクに備えてあった小さなペーパーナイフを手に取る。ナイフを持つ手が少しだけ震えている。
「姫様!」
サブリナが驚きで声をあげると同時に、そのナイフを持つ手を男性の大きな手が包み込んだ。
「何をするおつもりですか?」
「エルカイル様手を放してください。私にお渡し出来る物はもうこれしかないのです。手遅れになる前に……お願いします。」
「そんな小刻みに震える手で……やめなさい。」
アメリアは気を使って遠慮がちに握られたその手を振り払うとナイフを握りなおしそっと髪を巻き上げた。美しい髪に隠れていた彼女の白い首筋が露わになる。
「やめろ!」
「嫌です!」
彼は慌ててアメリアの手首を強く握る。
今までの比ではないその強さにナイフを持つ手がこわばる。しかし、もう心に決めたアメリアはそれでもナイフを離さない。
お互いに見つめ合い暫し動かない二人。
それを壊したのはアメリアの方だった。
見つめていた目を少し弱めたのだ。
それを諦めたと感じたエルカイルの手が少し緩み、直後アメリアの手は彼の手の中から消えた。
慌ててエルカイルがその手を追う。
「あっ」
首筋に届くギリギリのところでエルカイルの手に捕まえられたナイフは彼女の指に赤い筋を残して止まった。
今度こそ完全にナイフを取り上げてエルカイルはホッと息を吐いた。
目の前には呆然とするアメリア。
「俺の目の前で……なんてことをするんですか。毒にやられる前に心臓が止まるかと思いましたよ。」
「だって、足りない……から。」
まだ小刻みに手が震えている。自分を傷つけるためにナイフを持つなどきっと怖かったに違いない。ナイフが傷つけた指先からは赤い血が滲んでいた。
エルカイルはその美しい指をゆっくりと手に取り、そっと舐めた。
固まりかけていた血を舐めて取り除くとその傷口からまだ少し血がにじむ。彼は何を考えたのかそのままのその指を口に含んだ。
彼の暖かい舌が何度も何度もアメリアの指を撫でていく。
「エルカイル様……指を…あ、舌でそんなに舐めないで。」
エルカイルの目が少しだけ意地悪く笑う。
恥ずかしそうに声をあげるアメリアだが自分の指を含むその唇から目が離せない。
暫くして解放されるころにはすっかり血が止まっていた。
「これで血は貰いましたからね。くれぐれもこれ以上何処も傷つけないように。薬は頂いていいのですか?父に使おうと思いますが。」
「はい。差し上げます。エルカイル様は……大丈夫なのでしょうか?」
「ああ、父にこれを飲ませたらガゼリアに行ってきます。直ぐに解毒させますから大丈夫ですよ。ついでに暫く大人しくしてもらう様に言い聞かせてきます。」
ニコリと笑うエルカイルはもういつもの彼だった。
そしてそっとアメリアの手に口づけをする。
「行ってきますね。アメリア。」
彼はそう言うとそのまま来た時と同じようにゆっくりと部屋を出て行った。




