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13.本当の相手

「エルカイル様、今日は以前連れて行っていただいた博物館にいってきました。帰りに孤児の方たちと少し話したんですが最近、仮施設が出来上がったと喜んでおられました。」


 アメリアは珍しく夕食路共にする事が出来たエルカイルに今日の出来事を報告していた。


 今日、博物館の出口でであった彼らは以前よりも身なりが良くなり茶色がかっていた顔色も随分良くなっていた。アメリアは余程良い支援先が見つかったのかと彼らに聞いてみたところ最近になって国が各地域に仮施設を作ってくれたおかげでそこに登録して住む様になり、さらに食事も三食出ているのだという。


「ああ、全くの無償というわけでは無いぞ。寝食を提供する代わりに成人後の労働を契約で約束させている。それよりもあんな遠くまで外出したなら疲れたのではないか?」


 エルカイルの瞳が心配そうにじっとアメリアを見つめた。


「いえ、最近は体力もついたのでこのくらいなら大丈夫ですよ。」


 暗に初日に疲れて寝入ってしまったことを言われてアメリアは恥ずかしくなる。


 以前城で引きこもりがちだった事に比べると、こちらに来てからは興味深いものがたくさんあり頻繁に出歩くようになった。その為、随分体力はついている。今日の外出ぐらいでは本当に何の影響もなかった。


「体力……そうか、それなら良かった。しかしクリークにいた時はあまり出歩かなかったのか??まだ若いのだから色々なことに興味がむく時期だろう?」

「……お父様があまり外に出るなと……だから城に色々なものを取り寄せていました。」


 食事をしながらエルカイルに何気なく言われて、アメリアは応えてからしまったと思った。


 つい、カメリアではなく自分の話をしてしまった。確かに年若い妹は興味があれば何でも自分の目で見てみたいと言って侍女を引き連れ頻繁に外に出かけていた。


 そして、アメリアはそれをいつも見送っていただけ。慌てて取り寄せた本の内容やお菓子の話をして場を紛らわせたが上手くごまかせただろうか?それ以上彼から突っ込まれる事がないことに少しほっとした。


 カシャン

 突然床に金属が落ちる音が響いた。

 音がした方を見るとエルカイルに執事が慌てて駆け寄りナイフを拾い上げていた。代わりに新しいものを受け取る手には袖口から白い包帯が覗いていた。


「エルカイル様、お怪我をされていたのですか?」

「すまない。少々手が震えた。」

「そんなことより、お怪我は大丈夫なのですか?他に悪いところはないのですか?」


 アメリアは初めて目の前の男性が負傷をしている所を見て心のざわざわが止まらない。


「ああ、大したことはないよ。俺は大丈夫。少し仕事をするからこれで失礼するね。おやすみ。」


 エルカイルは食器を落とした所で食事をする気がなくなったのかニコリと笑って席を立つと自室に戻っていった。



 ◆◆◆


「エルカイル様、早くあの姫が『本物』なのかお聞きください。」

「バリー、お前は誰を『本物』としたいんだ?カメリアか?それともアメリアという姫か?」


 エルカイルは執務室に入るなり待ち構えていたバリーに詰め寄られた。国王の具合が良くないため出来る限りの仕事はエルカイルが代行している。その為、通常王の補佐もしているバリーにも仕事の処理を手伝って貰っているのだ。


 ガセリアの使者が帰ってから一日たっている。


 エルカイルの腕の傷は治るどころか悪化して、腕の自由を奪い始めている。残されたナイフからは毒の痕跡は見つからず対応に苦慮していた。

 そして王であるパントバリウス至っては今、ベッドから起き上がれない状況にある。



「彼女がアメリア姫なら……もし人魚なら彼女の血は薬になります。」

 あれから外に出ているエルアトスと連絡を取ってクリークを調べさせると確かに今城内には『姫』がいないらしい。ただ連れ去られたという情報がない。


 アメリア姫の母が人魚であることは既に城をやめた使用人から裏が取れた。しかし彼女は屋敷でアメリアの母に仕えていただけで直接アメリアを知っているわけではなかったため今この国にいるカメリアがとどちらなのかは判らなかった。


 しかし、ガゼリアが嘘をいう理由もない。



 今この事を知っているのはエルカイル、エルアトス、バリーの三人のみ。バリーはすぐにでもこの国にいるカメリアに確認をして然るべき対応をするようにと主張したがそれを止めたのは婚約者であるエルカイルだった。


「本人がカメリアだと言っているのにお前は別人だろうと詰め寄って、さらに血が薬になるから寄こせというのか?その上でガゼリアにはもう一人の姫が囚われていて交換したいと言われていると告げて追い出せと?噂以上の野蛮な国家だな俺たちは。」

「初めに欺かれたのはこちらです。それに貴方はカメリア様を望まれていたはず。もし彼女がアメリアなら本当のカメリア様を取り戻すチャンスではありませんか。」


 当初クリークに二人いる宝石姫のどちらかをエルカイルの妃にと王が言い出した時に何故か彼は迷うことなくカメリア姫を指名したのだ。のちに理由を聞いた時に恥ずかしそうに幼いころに一目惚れしたのだと聞いたことがある。幼少期の淡い記憶なのだから相手の事などそこまで鮮明に覚えてはいないだろう。それこそ間違った相手と結婚する前で良かったではないかとバリーは主張した。


「俺が望んだのは、彼女だ。名前が違ったとしてもそれは変わらない。」


 寧ろよかったという雰囲気で言うバリーの言葉にエルカイルは苛立ちを露わにした。


 あの綺麗な色彩の少女を自分が忘れるはずがない。それにこの国で優しく微笑んでいる彼女をいまさら手放すなど考えられなかった。


「今にも倒れそうな儚い姫に血を寄こせなど……言えるはずがないだろう。」


 彼女は初めから何かを隠していた。


 本当は気が付いていたがそれをエルカイルは敢えて無視し、パントバリウス達も何かを感じてはいたが深くまで追及はしなかった。それはひとえにここに来た彼女の事を気に入っていたからだ。


 彼女を問い詰めれば、きっと仕方ないですねと言って自分の血を差し出しそのままここを去っていく様な気がする。それがわかる位には彼女の事を理解していた。



「兄様、父上の意識がなくなりました。」


 帰国してからパントバリウスの容体を見ていたエルアトスが青ざめた顔で執務室に入ってきた。今は主治医が容体の確認をしているらしいが、気休め程度の処置しかできないと言われたとの事だ。

 思わず立ち上がったエルカイルも心労からか眩暈がしてそのまま座り込む。


「兄様、僕が言いに行っても良いですよ?どうせ一回泣かれてますから。」

「はあ?泣かせた?」


 自分を気遣ってくれて言った弟の言葉にエルカイルは少々怒気を込めて聞き返す。


「あ、いえ…その。ごめんなさい。やっぱり僕には無理です。」


 慌てて謝罪をするエルアトス。


「ああ、彼女のもとには俺が行く。」


 エスカイルは今度はしっかりとした足取りで執務室を後にした。

いつもお読みいただきありがとうございます。

最近週一の更新になっていますがもう少しスピードを上げたい今日この頃です(笑)

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