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10.意外な贈り物

宜しくお願い致します。

 祖国クリークのために出陣してくれた彼らを見送って五日後、全て片付いたと先駆けの伝令から知らせを受けた。


 そして数日後エルカイルたちが帰ってきた。


 途中少しトラブルがあったと言う事で帰城予定は深夜。起きて出迎えるつもりだったアメリアはいつの間にか眠ってしまい、朝になって出迎えに立ち会った侍女から誰一人として怪我もなく皆が帰還したと聞いた。


 心底ほっとした。


 そして数日の間会っていなかっただけなのに無性に彼の顔が見たかった。しかし夜遅くに帰ってきたばかりで疲れているはずのエルカイルはまだ寝ているに違いない。


 朝食が終わった後ぐらいなら起こしても良いだろうか?直接会いに行くのは気安すぎる気がする……やはり面会の伺いを侍女から伝えて貰うのが無難だろうか。アメリアはソワソワしながら着替えを済ませ朝食のために身支度をした。


 そして丁度支度が終わった所になって侍女を伴ってエルカイルが現れた。まさかの本人登場にエメリアは驚きで息をのんだ。

 彼のプライベートな服装を初めて見た。いつものきっちりとした騎士のような服装とは違い浅いブルーのスラックスに白いシャツ一枚を着ただけの姿が眩しい。


「おはようございます。エルカイル様。深夜にお帰りだったと聞いていたので今朝はまだお休み中かと思っておりました。」


「いつもの習慣で目が覚めてしまった。だから朝食を一緒にどうかと思って尋ねたのだが、いいだろうか?」


「はい。ではご一緒に食堂まで行きましょうか。」

 アメリアはそう言うと入口で立ちっぱなしのエルカイルに微笑んだ。


「いや、もしよければこの部屋の庭先にあるガセボで一緒に食べようと思い用意させてきた。」


 エルカイルと共に来た侍女が大きなバスケットを持っていたのはその為だったらしい。侍女は早速アメリアに支度の許可をとって庭の木陰にあるガセボに歩いて行ってしまった。


 彼女を横目で見ながらアメリアは自分の服装をどうしようかと考えていた。アメリアが朝食のために着替えたドレスは室内用の裾の長い物だったので庭先に出たらきっと裾が芝生についた朝露で汚れてしまう。だからと言って今彼を部屋から追い出して着替えるなんてことはとてもではないが出来ない。エルカイルが用意してくれた淡いオレンジのそれは最近のお気に入りのドレスだったが汚れたら洗えるのだろうか?アメリアは少し心配そうにドレスの裾を見た。


 すると、何かを察したエルカイルがごそごそとポケットを探り始める。


「ああ、外に出るにはその裾は長すぎだな。んんと……このピンで、」


 彼は何やらブツブツ呟きながらアメリアの足元に片膝をついてかがみこんだ。そして手慣れた指使いでスカート部分のフリルをピンを使って増やしていく。瞬く間にドレスはさらに可愛さを増し、心配していた丈もアメリアの理想通りの長さになっていった。


 男性が、それも王子と呼ばれる男がの手慣れた手付きで裁縫の真似事の様な事をしている。あっけにとられて何も言えないアリシア。


 作業が終わるとエルカイルは立ち上がり、無言で見つめるアメリアをエスコートして庭へ出た。すっかり用意が整ったガセボまで来ると彼は一枚の白い封筒をアメリアに差し出す。


 そこには見慣れた右上がりの文字で『娘へ』とかかれていた。


「貴方のお父上のラウール様はとても気さくな良い方だな。今回は戦の最中と言う事もあった少し会話を交わした程度だったが今度機会を作ってゆっくり話したいものだ。」


「手紙、読んでも良いですか?」

「勿論。その為に持って来たんだ。」


 手紙を大切に開け始めるアメリア。


 エルカイルは侍女に勧められるままゆったりとしたカウチに腰を下ろし、対面に座る愛しの婚約者が父からの手紙をゆっくり読んでいるのを見つめていた。彼が預かってきた来た手紙は天幕で彼女の父王と会った際にその場で書かれたものだった。内容はわからないがあまり長い文章ではないはずで、きっとすぐ読み終えてしまうはずだ。目の前で彼女はその手紙を何度も読み返している。


「ありがとうございました。父も国の皆さんもお変わりないようで安心しました。それとエルカイル様を大切にしなさいって書かれてます。あと、近々私に会いに知人が来ます女性で『ララ』です。」


 頬をほんのり赤く染めながらアメリアは手紙の内容をエルカイルに伝えた。


 受け取った時点で中身を検閲されているかと思ったのだが封書は開封されておらず彼が内容を知らないことは明らかだった。

 書かれているのはアメリアは殿下の事はどう思っているのか?や、彼との時間を大切にしろとか、とても真面目で好ましい青年で気に入っただの……兎に角彼を称える内容なので、本人を目の前にして読んでいてとても恥ずかしいものだった。


「ララさんですか。わかりました。追い返さないように門番に伝えておきましょう。ちなみにどんな方かお聞きしても良いか?」


 アメリアが頬を赤く染めている理由を知らないエルカイルは真顔で彼女を見つめた。


「はい……母の友人で他国に来た私の事を気にかけてくれていて会いたいそうです。父の紹介状を持って来る筈なのでよろしくおねがいします。」


 実は心当たりのない名前なのだが手紙には母の友人と書かれていた。父がそういうのなら恐らく大切な人だ。


 手紙の大半を占めるエルカイルを称える文章は検閲されることを考えての事で、この手紙自体はララの事を伝える為にかかれたのだろう。何か父からの伝言を伝えに来るのかも知れない。父は普段飄々としているが国をまとめる長だけあってそういう所はしっかりしているから不思議だ。



 朝食をいただいて食後のお茶を飲み始めたころにアメリアは先程の事を聞いてみることにした。


「エルカイル様は針仕事をなさるんですか?身分のある男の方がされているのを初めて見たものですから…気になってしまいました。」


 アメリアは素直な疑問を口にしただけだったのだが、目の前の彼が顔を真っ赤に染めるのを見て自分が失敗したことを悟った。彼はこの事を隠していたのかもしれない。


 どうして良いのかわからずお互いにしばし沈黙。


「すいません。今の話はなかったことに!」

「可愛いものが好きなんだ……特にドレスが。」

「え?」


 同時に発した言葉だったがあまりの衝撃にアメリアは『なかったこと』に出来そうもなかった。


「ドレスがお好き……もしや着られているんですか?」


 美しいドレスを着てたたずむエルカイルを想像して、少しだけ似合うと思ってしまった。


「いや、女装の趣味はない。そうではなくて、服のデザインをするのが好きなんだ。」

 彼はアメリアの想像に気が付いて慌てて否定し、説明をした。


 服のデザイン。

 アメリアはある事に気が付いた。

 前日の自分の状態を見て直ぐに翌日にそれを補正されて出来上がっていたドレス達、あれはもしや。


「私の衣装……エルカイル様の作ったものですか?」

「ああ、可愛い君を見ていると沢山デザインが湧いてきて困っているよ。仮縫いまでは自分でして後は部屋付きの針子に頼んでいた。」


 何やら聞きなれない単語を聞いた気がしたが取りあえずそこは聞き流した。そして自分にあてがわれた部屋のクローゼットに収まっている数々の見事なドレスを思い出す。今では全てがアメリアのお気に入りだった。アレがすべて目の前の王子殿下が作ったものだとは。武闘派と思っていた彼の意外な素顔を見てアメリアの胸がほんわりと暖かくなった。


「エルカイル様、いつも素敵な贈り物ありがとうございました。」


 アメリアは心の底からそう思い、花が咲くように彼に微笑んだ。

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