プロローグ
「カメリア様ぁ~そろそろお時間ですからお戻りになって下さいませ~」
遠くでこの城の侍女の呼ぶ声が聞こえる。
もしやこの芝生で気持ちよさそうに眠っている少女を探しているのだろうか?深い海の色をした美しい髪を持つ少女。閉じたままの瞼の下にある瞳はどんな色をしているのだろう、今すぐ起こして確かめたい好奇心と、幸せそうに眠る少女をこのまま眠らせておいてあげたいと思う良心が少年の中でせめぎ合っている。
「姫様~こちらですか?」
靴音と共に声が近づいてきた。少年は諦めてそっと身をかがめると少女の頬にそっとキスを落とす。少女の瞼がかすかにピクリと動いた。きっともう少しすれば彼女を目を覚ますかも知れない。しかし彼はそれ以上彼女を待つことをせず、踵を返すと侍女たちが来る方向とは逆にある茂みの中へと消えていった
「あら、アメリア様もこんなところにいたんですね。ついでですからお送りします。」
目を覚ましたばかりの少女を見つけた侍女たちは明らかに残念だという顔で彼女に言った。
「ごめんなさい。……いいお天気だったのでお散歩に出て眠ってしました。」
アメリアは立ち上がって侍女たちに深々と頭を下げる。
「ご自分の付き人をつけずに一人で散歩に出てお戻りになれなくなるのでしたら、いつもの様にお部屋に閉じ籠っていてくだされば良いのに。本当に余計な手間を掛けさせますね。ほら、行きますよ。」
来た道を引き返すために女はクルリと踵を返す。そしてそのまま振り返ることなく足早にスタスタと歩き始める彼女の後ろをアメリアは何も言い返せずに駆け足でついて行くのだった。
新連載を始めました。
よろしくお願いします。