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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第2章:The Hero of Farce
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第96話:武装・三光連斬

 兵士達は奮闘した。無数とも呼べる数の魔物を相手に、それぞれがぞれぞれの持てる最大限の働きで貢献した。その結果、ただの人間としてはよくやった、と賞賛できる程度には魔物を相手に奮闘できている様だった。それでも、アルバート一人に敵わない辺り、逸脱者と呼ばれる存在の次元の高さがよくわかる。

 アルバートは、アエラを探すまでの間、行き交う魔物は全て討伐していた。契約を結んでいることから魔物側もアルバートを味方側として認識しているのだが、それでは見られたときに怪しまれかねないので、仕方ない措置だった。

 そうこうしている内に、アルバートはアエラを見つける。彼女もまた、他の兵士達と共に魔物を相手に奮戦していた。

 四騎士という重要な立場でありながら最前線に立つのはリスクが大きすぎる気がしないでもないのだが、しかし兵士の士気を高めるうえではこれ以上ない最善手かもしれない。


「キィスさん!」


「アルバート! ちょうどよかった!」


 アエラは喜びに頬を綻ばせる。多くの魔物が接近し、同時に一・二体程度なら何とか相手になっていたのだが、三体になったあたりから厳しくなってきたらしい。今もその三体を相手にどうにか持ちこたえている様だが、持久力の関係からそろそろ限界が近いようだった。

 なるほど、とアルバートは状況を把握する。そして、アエラ達の集団と合流すると、腰に携えた一振りの剣を抜く。

 小さく息を吐いた。奇妙なほどに心臓が大人しい。契約の都合から絶対に狙われないとわかっているからだろうか? いずれにせよ、アルバートは平時と何ら変わらない冷静さで腰を落とす。


〈武装・三光連斬〉


 アルバートの身体が光となって疾走する。瞬きにも満たない間に繰り出される三度の斬撃。切られたことにすら気付かない魔物は、断末魔も悲鳴も上げることなく崩れ落ちる。大量の血液が噴出し、アルバートの衣服と顔を濡らす。

 アルバートは剣を鞘に収めると小さく息を吐く。そして、同じく血に塗れたアエラを見て微笑む。


「大丈夫ですか?」


 しかし、アエラから言葉は返ってこない、彼女は口を開けたまま呆然と立ち尽くしていた。


「キィスさん!」


 肩を揺すってアルバートはアエラに呼びかける。漸く我に返ったアエラはハッとして謝る。


「ごめんなさい! 私なら大丈夫よ。それにしても、英雄様は凄いわね。とても人間業とは思えなかったわ」


 事実、先程のアルバートの技は人間では不可能な動作だった。しかし、それができた。理由は単純。スクーデリアの魔力が、契約により彼の魂に組み込まれたおかげだ。元々の彼の技量にそれが組み合わさる事で、その実力はただの人間だった頃から飛躍的に上昇する。同じく悪魔と契約を結んだクオンには未だ及ばないものの、もはやヒトの子の社会で彼に勝てる者は存在しなくなった。


「いえ、無事ならよかったです。それより状況は?」


「なんとか持ちこたえてはいるけど、あまりよくないわ。住民が冷静なおかげで避難誘導がしやすいのが幸いね」


 袖で顔に付着した血を拭いながら答えるアエラ。息は切れ、肩で大きく呼吸する。

四騎士という高貴な立場でありながらも泥臭く戦うその姿は、誰もがその背中を追いたくなる。下手に高いプライドを誇示するのではなく、あくまで対等な立場で共に戦おうとする姿勢に、アルバートは感心を抱く。


「そうですか。とにかく、今は魔物を斃し続けるしかないですね。魔王が何処に行ったのかもわからないですし」


「ええ。でも、後どれくらい斃せばいいのかしら?」


 アエラは、地震の背後に積み重なった骸の小山を一瞥しながらため息を零す。気分が悪くなる血と肉の臭いが辺り一面に充満する。


「勝てるまで、ですね。もう限界ですか?」


「まさか。まだまだいけるわよ。英雄様こそ、こんなところでくたばらないでよね」


 行くわよ、とアエラは再度気合を入れ直す。そして、剣を握り締めると部下の兵士達を伴って魔物達に襲い掛かる。

 百戦錬磨の強者が揃うアエラの部隊は、多少の負傷者を出しながらも着実に魔物を狩りとっていく。それを後ろで追いながら、アルバートは心中で思考する。


 どうする? このままだと魔物が狩りつくされてしまうな。スクーデリア様が動くまでは持ちこたえてほしいが……。


 スクーデリアはまだ動く様子はない。アルテアと共に何かを待っている様だった。それが何かわからないアルバートは、アエラを監視しつつ怪しまれない程度に魔物を狩る事しか出来なかった。



 イルシアエルとテルナエル。二柱の天使は無垢の人間達に混ざって安全な地に避難していた。ルシエルやセツナエルからこの戦いの詳細について何一つ教えられていない彼らは、何処に参加すべきか迷っていた。その為、無翼の天使であることを利用して一時的に人間に交じって行動していたのだ。


「どうする、イル」


「まずは状況を確認しない事には……下手に手を出して好機を失する事になってしまえば目も当てられないからね」


 イルシアエルは遠くの空を見上げる。金色の聖眼で見えない力を詳らかにして、現状を可能な限り把握しようとする。

 そこかしこで聖力と魔力が衝突し、巨大な爆発と共にそれらが波となって押し寄せる。そこへ龍脈が加わることで、宛ら神龍大戦を彷彿とさせる装いが再現される。しかし奇妙なのは、地上を走る人間達。魔物を相手に奮戦し、少量ではあるがその数を減らそうと尽力している。微力ながらも団結することで、巨大な個を凌駕する人間の工夫。そんな彼らを見張る様に点在する悪魔達に、イルシアエルは思考を巡らせる。


「ねぇ、テル? 人間達を観察するように点在してる悪魔達、ちょっと気にならない?」


 イルシアエルの質問に、テルナエルは聖眼を開いて観察する。


「ホントだね。でも僕、どこかで見たことある魔力だよ」


「そうね。ってことは、そこそこ古い悪魔かな?」


 しかし、それが誰だったか思い出せない。懐かしさを感じるということは、それなりに顔が知れた相手だということ。それにも係わらず思い出せないのは、それほど印象に残る相手ではなかったのか、或いは会ったのが昔過ぎる為か。

 イルシアエルもテルナエルも、生まれたのはかなり昔。人類が創造されるよりずっと過去に生まれたため、古すぎる記憶は流石の天使と言えども忘れてしまうのだ。


「会いに行ってみよっか? イルは何処に行く?」


「そうね、それじゃあ、私は東に行こうかしら」


「だったらボクは北だね」


 気を付けてね、と互いを心配しつつ二柱はこっそり避難場所を抜け出してそれぞれの目的の方向へ飛び出した。東には魔物を指揮するエルバが、北にはエフェメラを監視するセナがいる。イルシアエルもテルナエルも、久し振りに会える悪魔を前に魂を震わせるのだった。

 しかし、イルシアエルの魂の震えは何も好奇心だけに由来するものではなかった。各地で勃発する聖力と魔力の衝突の激しさに対する警戒心に由来する震えも含まれていた。中でもとりわけ激しいのが、ルシエルとクオンの衝突。一瞬、ルシエルとアルピナが戦っているのかと勘違いしてしまったほど。幾ら契約を結んだからと言って、とてもヒトの子の肉体と魂が耐えられる魔力ではなかった。


 一体どうなってるの? 魔力に対する適応が早い? それとも、アルピナが細工した?


 空を飛びながら、イルシアエルは思案する。存在してはならない存在が存在しているかのような恐怖。得体のしれない存在に対する違和感が動じてもぬぐえなかった。

 それでも、喫緊の目的は東の悪魔である。何処かで感じたことがある魔力を頼りに、イルシアエルは悩みつつも向かうのだった。

次回、第97話は1/2 21:00公開予定です

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