表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
509/511

第509話:神龍大戦②

「そうだな。だが、嬉しいか悲しいか。余りのんびりしていられる余裕はない様だぞ」


 グルルルッ、とジルニアが唸り声を上げる。大きく翼を羽搏かせつつ、肉体の深奥に鎮座する魂から龍脈を湧出させる。血液に乗って全身を循環するそれは軈て殺気となって迸り、今現在彼らが飛行している龍脈を疾走する。

 如何やら、天使達が彼らを追走しているらしい。とは言っても、未だ確実に捕捉されている訳ではないらしく、竜眼に映る彼彼女らの魂の動向からして、如何やら捜索活動中らしい。


「追手か」


「御見送りだと嬉しいのだがな」


「まさか」


 よろよろ、と起き上がりつつ、アルピナは乾いた笑いを零す。太古から続く戦争の最中。そしてその敵対種族ともなれば、平和的な御見送りの筈がない、というのはバカでも分かる。アルピナかジルニア、その何方かを狙って、彼彼女らは捜索を続けているのだ。


「さて……これから如何する、ジルニア?」


 龍脈を飛翔するジルニアの背中に伏せたまま、アルピナは問う。声色も、表情も、何処にも余裕の色なんて存在しなかった。如何にかしてこの状況を打破しなければ、という危機感だけが、彼女の心を突き動かしていた。


「如何しようにも、お前がその状態である以上、如何する事も出来無いだろ。……まぁ、それは俺もだがな」


 兎も角、とジルニアは息を吐き零す。彼もアルピナ程では無いとはいえ、それなりにダメージを負ってしまっている。龍脈を飛行するくらいの体力や龍脈は未だ残っているものの、しかし天使との戦闘行為となると心許ない。

 つまり、身体を修復し体力を回復し体勢を立て直せるだけの時間的猶予を確保する必要に迫られていた。

 その為の竜の都だった。あそこは聖眼や魔眼に映らない秘密の場所。避難所としてはこれ以上無い格好の隠れ家だった。


「龍の都ならそう簡単に見つかる事は無い。少しくらいの時間稼ぎにはなるだろう」


 急ぐぞ、とジルニアは速度を上げる。龍の都はもう間も無く。肉眼でも朧げ乍ら視認出来る程の距離だ。一秒でも長くアルピナ——と自身——の休息時間を確保する為にも、彼は脇も無振らず全力を振り絞った。



 そうしてアルピナとジルニアが龍の都へ一時避難を進めている一方、彼彼女と敵対する天使セツナエルはというと、地界に浮かぶとある星の中にいた。そこは、つい先程迄戦争行為が行われていた最前線であり、凡ゆるヒトの子の中でも人間種が取り分けて中心的に生息している星である。また、然程大きくもなければ小さくもなく、多種多様な自然に恵まれた過ごし易い環境が整えられており、神の子達にとっても管理し易いと評判だったりする。


「そうですか、アルピナとジルニアを逃しましたか」


 セツナエルは静かに呟く。その金色の聖眼は遠くの空を眺めており、寒気がする程に穏やかだった。その横には彼女の側近であるアウロラエルが侍っており、申し訳ありません、と頭を下げている。

 彼女はつい先程迄、セツナエルの下命でアルピナとジルニアと戦っており、その後の闘争劇を含めて執拗に後を追っていた。しかし、ちょっとした隙をつかれ、或いは単純な実力差によって、みすみす取り逃してしまったのだった。


「しかし、まぁ良いでしょう。貴女はあの子達より若い世代。幾ら数的優位性を確保していたとは雖も、実力で敵わなければ多勢に無勢でしょう」


「彼らは何処に逃げたのでしょうか? やはり、神界でしょうか? あそこなら、絶対の中立が確保出来ますし、神の加護を強く受けられますので」


 アウロラエルの脳裏に浮かぶのは、神の居住地たる神界。この星の外に広がる宇宙空間こと地界の更に外に広がる龍脈の更に外に広がる蒼穹を超えた先に漸く辿り着けるサイハテの地。ヒトの子では到達する事は疎か認識する事も有り得ない遠い遠い領域。

 若し彼女らがそこに逃げ込んでいるとなると、かなり面倒な事になる。神界の中立は絶対の原則であり、彼女らを捕らえたいアウロラエルの側からすると、如何様にも手が出せない聖地へと早替わりしてしまう。加えて、創造主たる神の近く故に、下手な行為もし辛いというのも大きいだろう。母なる故郷が堅牢な籠城へと早替わりする様は、頭では分かっていても何とも言えない嫌な気分にされてしまう。


「……いえ、恐らくそれはないでしょう。確かに、あそこは確実な安全が保障されていますが、少々遠過ぎます、今の私が全速力を出しても、此処からでは二日程掛かりますので」


 となると、とセツナエルの頬は微かに綻ぶ。神界という一番面倒な場所が候補から外れた今、考えられる候補は一つしかなかった。


「龍の都に向かっているでしょう。あそこは龍以外の瞳を阻害する秘密の地。加えて、濃い龍脈で満たされている事もあって私達天使にとっては最も近寄り難い地。姿を隠すには最適でしょう」


「龍の都……成る程。確かに、あそこでしたら私達の目を欺けますね。ですが、如何しますか? 龍の都を探すとなると、かなりの手間になりますが……」


 龍の都は広大な龍脈の中の何処か一点に存在する小さな土地。それこそ、今彼女達が立っているこの国と然程面積は変わらない。しかも、それが絶えず移動しているのだ。天界と魔界と地界という三つの領域、詰まる所宇宙三つ相当を内包して尚余りある広大な空間からそれを探すともなれば、宛ら砂漠の中から特定の砂粒一つを探す様なマネだろう。如何頑張っても現実的では無いし、途方も無さ過ぎる。


「いえ、それには及びません。かなり昔の事ですが、龍の都には何度か訪れた事があります。後はそこから龍脈の流動や三界の移動を元に計算すれば、凡その位置は推察出来ます」


「成る程。では、早速ご命令を速やかに両名を捕縛してまいります」


 しかし、セツナエルは首を振る。決してアウロラエルの言葉を無碍にしたい訳では無く、あくまでも彼女自身の覚悟の為の拒絶だった。


「いえ、私が出ましょう。やはり最期は、私自身の手で終止符を打たなければなりませんので。それに、龍の都は龍の故郷。相性上不利な天使では、幾ら束になっても勝ち目はゼロにしかなりません」


 では、とセツナエルは息を吐く。背中から伸びる三対六枚の純白の翼を大きく羽搏かせ、金色の聖眼を燦然と輝かせ乍ら、大空へと浮かび上がった。


「暫くの間、宜しくお願いしますね。余程の事でもなければ、貴女に全て一任しますので」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ