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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
507/511

第507話:交代②

 それからアルピナは、一瞥もくれることなく地上へと降りる。本音としてはもっと名残惜しくスクーデリア達の戦いの行方を見守っていたいところなのだが、生憎そんな悠長なことはしていられない。“約束”が成就する瞬間が今正に手の届く所に迄至ったのだ。これを後回しに出来る程、アルピナにサボり癖は無い。

 目にも止まらぬ速さで、アルピナは地上に降り立つ。まるで落雷を彷彿とさせるそれからは、何時もの様な余裕綽々とした理性的な態度振る舞いは感じられない。自らの欲と希望に縋り切った本能の色香に飲み込まれている様だった。

 ……頼んだわよ、アルピナ。

 スクーデリアは心中で呟く。幾ら此方の方が数的に有利だとは雖も、相手は元悪魔公にして現天使長のセツナエル。如何頑張っても勝ち目のある相手では無い。何なら然程の時間稼ぎすら真面に出来るか怪しい迄あるだろう。

 実際、スクーデリアでさえ、彼女には生まれてこの方一度も買った事は無い。同じ草創の108柱ではあるものの、単純に生まれた順番が違い過ぎるが余り、拮抗する事すら許されないのだ。

 そして、彼女でさえそれなのだから、彼女より若いクィクィ達に関しても同様である。決して勝てる相手では無いと分かり切っている強大な相手。憖元悪魔だという事もあって、下手な異種族よりよっぽど勝手知ったる相手だろう。だからこそ、その敗北感はより鮮明且つより明確に魂へと提示される。

 それでも、やらねばならないのだ。この機会を逃せば恐らくもう二度と龍魂の欠片が揃う機会は無いだろう事は、彼彼女らの魂が激しく伝えてくれる。アルピナの為に、ジルニアの為に、そしてクオンの為に、この機会を決して逃す訳にはいかないのだ。

「成る程、時間稼ぎですか。しかし、それもまた良いでしょう。今直ぐにでもそししなければ手遅れになる訳でもなさそうですし」

 さて、とセツナエルことセツナは柔に微笑みつつ語り掛ける。聖女と称される地位を抱いて人間社会に潜伏していたに相応しいその仕草は、最早明確な敵でありつつも戦意を失ってしまいかねない美しきもの。思わず見惚れてしまいそうな程に神聖で清らかなそれで以て、彼女は改めてスクーデリア達と対峙する。

「それでは、始めましょうか」

 ふふっ、と可憐に微笑むその口元は、やはりアルピナにそっくりだった。慈愛と傲慢という対極する性格を有する者同士ではあるものの、そこはやはり姉妹ということなのだろう。これ迄に何度も、それこそ飽きる程に見てきたその笑みだが、今回に関しては何時に無く魂を刺激するものだ。勿論、怒りで暴走したりする事こそしなかったものの、それでも対立する者同士、余り良い気分ではいられなかった。

 そして、改めて、天使と悪魔は激しい衝突を繰り広げる。今回は先程の戦いと異なり複数人による争い。故に、一柱一柱が生み出す破壊の衝撃こそ然程の苛烈さを持ち合わせてはいないものの、全体で見るとかなりの気尾を誇っていた。それこそ、上空で戦っているにも関わらず地上に迄その余波が届いてしまいそうな程の規模だった。

 しかし一方、そんな彼女達の戦いなどまるで無視する様に、アルピナは地上に降り立つ。頭上から降り注ぐ戦いの余波が彼女の髪を靡かせ、魂を刺激するが、しかしそんな一切合切は最早彼女に対して何ら影響を及ぼさない。何時もなら、戦い好きな性格が講じてついつい其方に意識が奪われてしまいそうなものだが、今回ばかりはそんな事は決して有り得なかった。恐らく、スクーデリア達に肉体的死が与えられたとしても、それは揺るぎないだろう。それ程迄に、この瞬間は彼女の心を奪っていたのだ。

「アルピナ」

 クオンは彼女の名前を呼ぶ。これから行われるであろう事に皆目見当が付かず、加えて彼女の態度が何時にも増して異様過ぎるが余り警戒心を抑え切れなかったのだ。勿論、彼女の事は信用しているし、信頼もしている。故に、自分に何か危害を加えてくる様なマネはしないだろうという事は分かっている。此処迄共に旅をしてきたのだ。今更そんな愚行を犯した所で、彼女にとって何一つメリットが無いだろう。

 だが、それでも、彼女が純粋な人間では無い、という事実が、彼の心に一抹の不安を過らせる。悪魔という、これ迄の人間的生活では見た事無く、精々が神話か宗教の範囲内で僅かに聞かれる程度、それが実在し、且つこうして眼前に存在するともなれば、それに対して警戒しない訳にもいかないだろう。若しこれで欠片ばかりの不振を抱かないともなれば、それは余程深く濃密な付き合いをしているか、或いは余程のノーテンキかの何れかだろう。

 何方にせよ、クオンとしては一定の信頼を抱いていた事は事実だった。その上で、何時もと異なるたいど振る舞いに対して不審や違和感を抱いていたに過ぎなかった。決して彼女の事を信頼していないのでは無く、信頼しているからこそ、何時も通りでは無いという事実に気を取られてしまっていたのだ。

「あの時から10,000年。随分と待たせてしまったが、漸く来たな、この時が」

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