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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
506/511

第506話:交代

 それでも、やらねばならないのだ。立場上の理由だったり、状況的な理由だったり、何れにしても、何方も逃げるという選択肢は持ち合わせていなかった。こうなったら何処迄もやってやろう、という、破れかぶれな覚悟すら滲ませていた。


「出来るだけやってやるか」


「そうだな」


 覚悟を結ぶかの様に、ヴェネーノとワインボルトは自分自身に言い聞かせる。恐怖で震える魂を意欲と覚悟による高ぶりへと変換し、その魂から湧出される魔力を一層高める。瞳を其々金色の魔眼に染め、眼前で繰り広げられている超常の戦いを見据えるのだった。

 そして、息を揃えて、スクーデリア達はアルピナの元へと向かう。彼女にはクオン及び彼が持つ龍魂の欠片に注力してもらわなければならない。その為にも、肉壁となってでもセツナエルを止めなければならなかった。

 一方、その頃、アルピナとセツナエルの戦いもまた最高潮に達しようとしていた。魔力と聖力が入り混じり、漆黒と純白の翼が交差し、黄昏色と暁闇色の剣が鬩ぎ合う。ヒトの子の暮らす領域内にあってヒトの子の為せる領域の外側に位置する超常の力の衝突が織り成す衝撃は、最早真面に観測する事も能わない様な超常の光景をその場に残すだけだった。

 そんな中、再度セツナエルとアルピナが衝突しようとしたその時、両者の間に割って入る様に、スクーデリアが乱入する。アルピナが持つ魔剣やセツナエルが持つ聖剣とは趣が異なる細身の剣は、精巧な飾り細工によって加飾され、最早武器というよりは装飾品の様な雰囲気を内包していた。


「あら、今度は貴女が相手になってくれるのですか、スクーデリア?」


「えぇ、偶にはこうして体を動かしたくなるのよ、私も。それと、戦うのは私一柱だけではないわ」


 チラリ、とスクーデリアの不閉の魔眼が、彼女の周囲に展開する仲間の魂を捉える。何れも強い戦闘意欲を昂らせつつ、恐怖とも興奮ともとれる震えを魂の深奥から湧出させ、それに見合うだけの魔力を全身に漲らせている。

 クィクィ、ヴェネーノ、ワインボルト。何れも直近の神龍大戦を生き残った数少ない悪魔達であり、故にそれ相応の強大な力を持った存在でもある。事実、それを示す様に、彼彼女らの魔力は、天使長であるセツナエルや悪魔公であるアルピナを傍にしても霞まないだけの存在感をシッカリと放っている。

 取り分け、クィクィに関しては、スクーデリアより少しばかり劣るだけであり、その存在値は実年齢以上の強大さを担保している。才能と努力と運の何れにも恵まれた彼女の力は、或いはこの場に於いて尤も警戒しなければならない対象かも知れない。


「あら、如何やら皆さん御揃いの様でしたか。余り良い趣味とは思えませんが……まぁ良いでしょう。相性的には此方に分がありますので」


 金色の聖眼を妖しく輝かせ、セツナエルは微笑む。数的優位性を確保された状態であるにも関わらず、その態度振る舞いから零れる雰囲気には、一部の危機感も感じられない。最早アルピナと戦っていた段階と何一つ変わらない迄あるだろう。

 幾ら種族的な相性差があるにせよ、何とも驚異的な事だろう。それは、余りにも両者の実力差に隔絶された開きがある為だろうか? それとも、何かしらの隠し玉が存在する為なのだろうか?

 何方にせよ、一抹の気味悪さがある事だけは事実である。昔からの付き合いがあり、且つこういうのは昔から変わらない事だと知っているとはいえ、それでもやはり慣れないものだ。嫌悪感と迄はいかないものの、如何にも近寄り難い忌避感すら抱きかねなかった。


「それじゃあさ、アルピナお姉ちゃん。こっちはボク達で如何にかしとくから、そっちの事は御願いね。ボク達の事は気にしなくて良いから」


 クィクィはそうアルピナに言葉を掛ける。アルピナの対外的な性格からして恐らくそういう他者への迷惑や遠慮を気にする様な性格ではないだろう、というのは大体の者が想像出来るだろうが、しかしそれは彼女の事を表面的にしか知らない者故の思考回路。実際の所、彼女は思いの外仲間想いであり、口では打切棒で冷徹な事を言いつつも、行動はその反対を行くタイプである。況してや同族であり尚且つ幼馴染であるスクーデリアやクィクィを前にするとそれは顕著であり、最早別者の様な違いすら覗かせてくれるのだ。

 だからこそ、それを示す様に、アルピナの態度や雰囲気は、スクーデリア達を気にする様なものに染まっている。口や表情にこそ表さないものの、魂は顕著に反応しており、あからさま過ぎる程に揺さ振られている。

 だが、それも一瞬。直ぐ様何時もの様な平静を取り戻すと、その顔つきもまたそれに相応しいものへと戻る。悪魔アルピナから悪魔公アルピナへとの移行によって取り戻される傲岸不遜で冷徹な瞳は、相も変わらず魂に突き刺さる様な鋭さを感じさせられる。


「……そうか。では、此処はキミ達に任せて、ワタシはその御言葉に甘えさせてもらうとしよう」


 彼女の口角が上がる。隠し切れない喜びが魂を突き破って相好へと到達している。10,000年前に誓った最初で最後の〝約束〟が漸く成就する瞬間の到来であり、それは悪魔である彼女にとっては然程の長さも感じない刹那的なものだったが、それでもその時間以上に待ち侘びた瞬間でもあった。

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