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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
503/511

第503話:最後の一欠片

 二柱の神の子は、此処が地界である事、即ち此処がヒトの子の生活領域である事を亡失したかの様な激しい戦いを繰り広げる。それこそ、空気では無く空間そのものが悲鳴を上げているかの様な、そんな激烈な衝突であり、これ迄クオンが何度も見てきた凡ゆる神の子の力の衝突を上回っている事は確実だった。

 大地が揺れ、空気が軋み、直ぐ傍で立つクオンは思わず腕で顔を覆う。そうでもしなければとても耐えられる状況では無かったし、況してや助太刀しようなどとは欠片たりとも思わなかった。そんな事をしようものならあっという間に消し炭にされてしまう未来しか見えず、つまる所足手纏い以外の何物でも無い事は明白だった。

 故に、アルピナの事を思う気持ちとは裏腹に、その身体は一歩たりとも前に歩む事は無かった。只只管に自身の身を護る事だけに注力し、天使の長と悪魔の長が繰り広げる熾烈な姉妹喧嘩を見せつけられる事しか出来無かった。

 しかし一方で、クオン以外はというと、全く以てクオンとは相異なる態度振る舞いを其々浮かべていた。

 というのも、この場にいるクオン以外は全員漏れ無く神の子。つまり、アルピナやセツナエルと同じ側の立場。加えて、スクーデリアとクィクィに関しては、遥か太古の時代からアルピナと肩を並べてきた友人同士。セツナエルとも古くからの顔見知り。その為、今更驚く様な事も無ければ、極自然と受け流す事は非常に容易なのだ。


「さて……」


 スクーデリアは小さく息を吐き零す。その視線は、空中で何度も衝突を繰り返すアルピナとセツナエルを注視していた。凡ゆるものを見通す不平の魔眼を輝かせ、最古の姉妹が織り成す死と欲望の壮大な喧嘩を只ジッと見つめ、まるでそれを懐かしむ様な相好を浮かべていた。


「あの子達が戦っている間に、私達は私達で出来る事をしましょうか」


「出来る事?」


 クオンは問い返す。首を傾げ、スクーデリアの言葉を反復し、まるで何も分かっていない事を対外的に示す。それは素直で純粋な意思表明であり、単純明快な分かり易さによって構成されている。嘘偽りの無いそれは、僅かばかりの意地は存在せず、取り繕おうとするつもりが微塵も無い事が誰の目にも明らかだった。

 抑、こんな状況でそんな事をしていられる筈も無いのだ。人間として生まれ人間として育ったクオンにとって、この状況は自身の常識の範疇を遥かに逸脱している。そんな状況下にあって、今更自身を少しばかりでも良く見せようとする必要性が無かったし、それを考えていられる様な余裕だって何処にも存在していなかった。


「本当はアルピナがするべきなのでしょうけれど、セツナを真面に止められるのはあの子だけ。最後の一手迄は此方で進めておく必要があるのよ」


 イマイチ何を言っているのかが良く分からず、クオンは只それを聞く事しか出来無い。互いに理解出来る言葉を使用している筈なのにこうも言葉のキャッチボールが上手くいかないというのは、実に不思議なものだ。何処と無く会話に具体性が無く、無駄に遠回りな回りくどい対応で受け流されている様な気がしてならなかった。


「そだね。んじゃあさ、ワインボルト。龍魂の欠片持ってるでしょ? あれ、出してくれるかな?」


 スクーデリアの意思を完璧に読み取ったのか、一手先をフォローするかの様に、クィクィはワインボルトに言葉を掛ける。戦いの余波が降りかかっている最中とは到底覆えない快活で大らかな態度であり、まるで此処が平和な街中であるかのように勘違いしてしまいそうになる。

 だが、それでも、変に不自然な印象を残さないのは、彼女の見た目がそうさせるのだろう。一見して幼く稚い少女の様にしか見えないそれが、状況とのチグハグさに尤もらしい土台を拵えてくれるのだろう。


「龍魂の欠片? あぁ、それなら此処にあるぞ」


 少々面喰らい乍ら、ワインボルトは自身の異空収納から龍魂の欠片を取り出す。ラムエルに奪われない様に、最大限の秘匿を重ね掛けする事で辛うじて繋ぎ止めたその秘石は、この星に存在する凡ゆる宝石細工をも上回る美しさを持っており、神の子達が挙って宿す煌びやかで彩り豊かな瞳を彷彿とさせる美しさを兼ね備えていた。

 まるでそれ自体が意思を持っているかの様であり、少なくともヒトの子の文化文明で生じる様な代物ではない事は確実。正しく神の子の力が介在している事の証であり、或いはこの奇妙で数奇な運命を司るだけの重要性を持っている事の暗示だった。


「クオン、その欠片を受け取りなさい。これで、貴方が持っている台座が全て埋まる筈よ」


 言われるが儘に、クオンはこれ迄集めた龍魂の欠片を収めている台座を、自身の異空収納から取り出す。何時もはネックレスとして首から下げているのだが、ラムエルから守る為に遺剣と一緒に奥深くへと仕舞い込んでいたのだ。

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