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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
501/511

第501話:セツナとアルピナ③

「そうそう。だからボクって天使の事が大嫌いなんだよね。セツナお姉ちゃんは悪魔の名を汚した裏切り者だし、他の天使だって、元々の天使長だった水はお姉ちゃんを護らずにセツナお姉ちゃんに肩入れした背徳者なんだもん」


 スクーデリアに続く様に言葉を掛けてきたのは、クィクィだった。ラムエルとの戦闘が終わり一休憩終わったのだろう。ヴェネーノとワインボルトを伴い、彼女は何時の間にかクオン達の後ろに合流していた。


「あら、クィクィ。魔眼も無事に機能する様になったみたいだし、如何やら無事に終わらせられた様ね。格上相手に上出来よ」


「えへへっ、ありがと、スクーデリアお姉ちゃん! でも今回は、ヴェネーノとワインボルトのお陰かな。二柱とも、すっごい頑張ってたから」


 チラリ、とクィクィは自身の背後を一瞥する。その視線の先にはヴェネーノとワインボルトが控えており、何方も疲労困憊と言った具合で肩を支え合っている。幸いにして大きな怪我というのはなさそうだが、それでも神の子特有の回復力では追い付かない程度の損傷は受けている様だった。

 その姿は、正しく激闘を潜り抜けた先の姿といっても過言では無いだろう。クオンは彼ら二柱を見て何も言えなかった。二柱ともその序列階級に見合うだけの力を有している事はクオンも認める所。今だって、正直な所、彼らに勝てる見込みは無い。天魔の理の影響下の中で戦ってくれるなら未だ戦えなくはないのだが、その先に全力が控えている事を考慮すれば勝機は無い。

 そんな彼らがこれ程の状態になる迄追い込まれているのだ。その激しさが暗に示されるというもの。だが、同時に、此処迄追い込まれてしまった原因に関しても、自ずと理解が及んでしまう。

 それは、単純な実力差以外の要因。抑、クィクィも一緒にいたのだ。余程の事態が起きない限り、此処迄悲惨な目には合わない筈。それにも関わらずこうなってしまったという事は、クィクィが何かを企んだという事に他ならない。

 それが何か、クオンは朧気に予想は付いた。だが、敢えてそれを口にする事は無かった。しても良いのだが、今はそんな悠長な事をしていられる余裕なない。眼前の戦況の方が余程大事だった。


「さて」


 アルピナは改めて息を吐き零す。その息遣いは非常に重苦しく、今現在彼女が置かれている心境を表していた。実の姉妹同士での対立。それも、裏切りと企みによる利己的な動機によるもの。最早言語化する事すら難しい、悲痛な思いが彼女の魂を縛り上げている事は疑いようがなかった。


「改めて聞くが、君の目的は何だ? ミズハエルを殺害し、天使長の座を簒奪し、神龍大戦を起こし、ジルニアを追い詰め、魂の欠片を欲する。その先の未来に、君は何を見出している?」


 両腰に手を当て、アルピナは低く重たい口調で再度尋ねる。金色の魔眼をより一層鋭利に輝かせ、魂からは空間そのものを凍り付かせる様な魔力を垂れ流す。漆黒色の翼を羽ばたかせ、宛ら同族を前にした野生動物の様に威嚇の威勢を差し向ける。

 そんな彼女の心を支配しているのは、怒り。彼女にとって最も大切な友人は嘗て皇龍と呼ばれた龍、ジルニア。数十億年を掛けて紡がれた親愛の紐をこうも惨たらしく飛散させられた事に対しる彼女の怒りは相当なものであり、憖セツナエルとは双子の姉妹同士だからというのもあって、一層の怒りを募らせていた。


「少々、検証してみたい事がありまして。まぁ、他愛の無い自己満足の実験ですよ。貴女は勿論、全ての神の子にとって何の意味も無くその価値も見出せない様なものですよ」


 それにしても、とセツナことセツナエルは微笑む。その見た目に即した聖女の如き微笑みは、流石は聖職者として人間社会に溶け込んでいただけの事はある。只でさえ人間社会ではその宗教上の観点から天使を神聖視するのだ。そんな宗教的価値観も合わさる事で、その存在に恥じないだけの可愛らしさが溢れ出ていた。


「幸いにして此処には天使長、悪魔公、皇龍、全ての魂が揃っている様子。手間が省けて嬉しいですよ」


 セツナエルの聖眼は、天使長である自身、悪魔公であるアルピナ、ジルニアの魂の欠片及びそれを収める台座を持つクオン、最後の欠片を持つワインボルトを其々一瞥する。

 その全てを見透かす彼女の聖眼は、まるで全てを丸裸にされたかの様な冷たさを孕んでおり、心許無さもまた同様に感じさせられる。冷汗が額を走り、凍てつく恐怖でクオンの躯体は小刻みに震えてしまう。


「龍魂の欠片はワタシが求めていたものだ。君如きにわたす筈も無いだろう」


「そうですね。それに、まだその龍魂の欠片は未完成の様子。この儘の状態では、貰った所で私も使いこなせないでしょう」


 しかし、とセツナエルは改めてクオンを見る。その視線は彼が持つ龍魂の欠片や遺剣ではなく、彼の魂そのものを見ていた。只の人間である筈の彼の魂に一体何があるのか、彼自身全く以て身に覚えが無く、困惑と警戒の色を隠し切れなかった。

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