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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第495話:魔炎雷撃衝

 えへへっ、とにこやかに笑う彼女だが、しかし全く以て穏やかではない。寧ろ、生きた心地すらしない緊張感を強く抱かせてくれる。倒錯的なその冷たさは、同じ悪魔であっても到底無視出来無い程には種族としての正常から大きく逸脱しているという事だろう。

 ヴェネーノとワインボルトの額に冷汗が浮かぶ。種族的な身体機能として汗腺は持たない筈だが、しかし精神的な作用からそれが不自然な程に自然に滲み上がってくる。それ程迄に、クィクィから齎される期待と重圧というのは強烈であり、不退転の覚悟を否応にでも決めさせられるのだった。


「「任せろッ‼」」


 ヴェネーノとワインボルトは全く同時に全く同じ言葉を発する。前以て取り決めていた訳では無い、会話の流れから極自然に零れた無意識な言葉でしか無かった。それ処か、クィクィがその言外に滲ませている重圧に押し流された挙句の咄嗟の反応だったかもしれない。正直な所、任せてもらっても大丈夫だ、と胸を張って自信満々に答えられる自信は何処にも無かった。

 つい見栄を張って、と言うべきか、或いは、会話の雰囲気に流されてしまった、と言うべきか、そんな取り繕い様が無い後悔を心中に滲ませつつ、しかしそれを決して誰にも悟られない様に、ヴェネーノとワインボルトは剣を構える。その姿は非常に凛々しく、非常に雄々しく、この状況にあって決して相応しくないと批判される事の無い、そんな力強いもの。とても彼らだけがこの戦いに参加している者の中ではずば抜けた格下だとは思えない程であり、良くも悪くも実際以上の強さを錯覚させられてしまう。

 彼らが手にする剣、つまり悪魔を悪魔足らしめる力である魔力によって構築された魔剣は、その力の本質を示す金色に輝いており、闘争の臭いを嗅ぎつけるかの様に禍々しく脈動している。剣身から柄に至るその魔剣全てを濃密な魔力が循環しており、この世のどんなものであり鋭利に切断してしまいそうな荒々しい殺気を撒き散らしている。

 同様に、その剣を持つ彼らの肉体もまた、濃密な魔力で包まれている。彼らを彼ら足らしめる其々の個体色に加え、彼らを悪魔足らしめる種族色、その上からその金色の魔力が張り巡らされ、宛ら宝石箱の如き煌めきを放っている。

 だが、それは同時に、恐ろしい程の殺気であるとも言い換えられる。平時では決して放たれる事が無い、抑として放つ必要が無い程のそれは、眼前の敵をこの好機を決して逃す事無くし止めようとする獣の如き眼差しによって補強されて成り立つもの。

 とはいえ、此処は地界である。故に、全力は出していない。幾ら位階が中程の彼らとは雖も、仮に全力を出そうものなら、地界という構造がその力に耐えられる筈も無い。抑として、地界は神の子が力を振るう事を想定されていない領域なのだ。当り前の事だろう。

 あくまでも地界はヒトの子の住まう領域であり、神の子が為す事は魂の管理だけである。輪廻も転生も、取り分けて大きな力を必要とする業務では無い。ちょっとばかし魂に施しを与えてやればそれで済む話であり、戦闘行為と比較すれば塵にも満たない微かな力でしかない。

 故に、ヴェネーノもワインボルトも、一見して全力の様に見えるが、実際の所は悪魔が地界に降り立つ上での原理原則に則った形を保ち続けている。尤も、幸いにして、敵であるラムエルもまた天使が守るべき原理原則からは欠片たりとも逸脱していない為、結果としてみれば双方が揃って全力を出しているのと相対的には何ら違いが無かったりする。

 そんな事は扨置き、当のラムエルは、相も変わらずクィクィの魔拘鎖から逃れようと藻掻いている。その幻影巨体を巧みに振り回し、鎖の根元をがっしりと掴んでいるクィクィに件名に抗う。

 だが、幻影では無く実体を捉え掴んでいる魔拘鎖は、そんな軟な抵抗では決して逃れる事は出来無い。寧ろ、より強固にしがみ付いてやろうとその力を増すばかりであり、徒に体力と気力と聖力を消費するだけの徒労へと変換させられてしまうだけだった。


〈〈魔炎雷撃衝〉〉


 そこへ、ヴェネーノとワインボルト、二柱の攻撃が同時に迫る。その炎雷を纏う剣を振り翳し、爆激とも見て取れる衝撃波と共に、彼らは聳え立つ幻影巨体の中央、つまりクィクィの魔拘鎖が繋ぎ止めている先に位置するラムエルの実体を目掛けて、一直線に突き進む。

 空気を穿ち、音よりも早く、或いは雷の様な速度で以て突撃するその加速は、正しく彼らを神の子足らしめるもの。凡ゆるヒトの子では決して成し得ない御業であり、それこそ英雄と称されるアルバートでも未だ出来無いだろう。何れは契約によって齎された魔力によって為せる様になるかも知れないが、それはもう暫く先の話だろう。

 そして、そんな速度で突撃する彼らだが、その進路は寸分の狂いも無い。僅かな誤差すら生じさせず、その剣は真っ直ぐとラムエルの実体へと迫る。聖力の障壁によって魔眼が碌に機能しない乍らも、それは魔眼が正常に機能している時と殆ど変わらない精度。

 これは勿論、彼ら自身が持つ技量の賜物というのもあるだろうが、それ以上にクィクィによるアシストの影響も大きいだろう。魔拘鎖及びそこから漏れ出す彼女の魔力が、ヴェネーノとワインボルトに進むべき道筋を提示しつつ、その微かな誤差を打ち消してくれているのだ。

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