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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第494話:捕縛②

 クィクィは、跳ねる様に陽気な声で笑う。その手掌には金色に輝く魔力が色濃く纏っており、さらにそこから幾本数もの鎖が伸び、ラムエルの幻影巨体の中へと伸びていた。その一本一本が濃密な魔力によって構成されており、悪魔を悪魔足らしめる本質がそこに内包されていた。

 しまった、とラムエルは咄嗟にそれから逃れようとする。しかし、そう思考を抱いた時には、既に手遅れなのだ。認識出来るという事は既にそれが行使されているという事だし、幾ら幻影で身体を覆っているとは雖も、既に行使された行動を後出しで対処出来る程にクィクィはのろまでは無い。幾らラムエルの身体機能が凡ゆる神の子の中でも取り分けて秀でていても、それは揺るぎ無い事。

 クィクィの手から伸びる魔拘鎖は、ラムエルの幻影巨体の内部へと侵入し、その儘彼女の本体へと伸びる。通常時であれば、幻影によってその実体を捉える事は不可能なのだが、攻撃という能動的行動の際には如何しても実体を表出させなければならない。そうでなければ相手の方から彼女に干渉出来無いだけでなく、彼女の方から相手に干渉する事すらも出来無くなってしまうのだから。

 そして、一度こうして実体を掴んでしまえば、後はクィクィの掌の上。鎖によって物理的に接続されてしまった以上、それを振り解かない限りはその実体を幻影の中に溶け込ませる事は出来ず、無防備な生身を曝け出す事しか出来無い。

 ラムエルは、焦燥と困惑と恐怖に背中を追い立てられ、より一層藻掻く。如何にこうにかしてクィクィの魔拘鎖を振り払おうと、聖力を流したり聖法をぶつけたり、或いはクィクィ自身に対して直接的な攻勢に出る事で物理的にその接続を遮断しようとする。

 だが、どれだけ手を尽くそうとも、結果は変わらない。まるでリードを繋げられた純朴な飼い犬の様に、彼女は只クィクィに飼いならされる事しか出来無かった。彼女の掌の上で無様な円舞曲を踊り、存在しない自由を只管に希うだけの屈辱を、静かにその魂に刻み込まれるだけなのだった。


「クッ……‼」


 迫り来る恐怖は並大抵のものではない。どれだけ長く生きようとも、仮令神龍大戦という最大規模の死線を経験していようとも、本能がそれを恐怖する。身体が拘束を受けていない自由だった時には仮令如何なる状況に陥ろうとも先ず感じる事の無いそれは、身体の自由を奪われているからこそ鮮明に色濃く映るのだ。

 抑として、神の子は基本的に不老不死。ヒトの子と異なり寿命というものは存在せず、外的要因により肉体的死を受け付けた場合にのみ一時的な死を与えられ、その後無事に魂が復活の理に乗せられたならば、軈て時間と共に肉体を伴って再生する。死後、魂が回収されず、儚くも霧散してしまった場合にのみ、彼彼女らは確実な死を迎える。

 輪廻や転生と言ったサイクルに組み込まれない独自の生態系を有する彼彼女らからしてみれば、死とは自身の背中にぴったりと付き従う未来ではなく、可能性の一筋でしかない。その為、ヒトの子と異なり主観的な死は身近なものではなく——他者の死、即ち客観的な死は、輪廻及び転生の理を管轄する都合上、ヒトの子に於けるそれで身近になっている——、だからこそ自身にそれが到来する可能性を見出した時、必要以上の恐怖を掻き立てられるのだる。

 だが、どれだけ彼女が恐怖しようとも、どれだけその恐怖から逃れる為に凡ゆる手段の限りを尽くそうとも、その拘束から逃れる事は出来無い。外部から見える幻影体ではなく、その内部に秘める実体を正確に捉えるその魔力の鎖は並大抵の力ではなく、仮令彼女の力であろうとも逃れる事は容易ではない。

 幾ら天使と悪魔との間に種族的な相性差があり、当事者間に大きな年齢的隔たりとそれに比例する位階の差があろうとも、それだけは覆せなかった。或いは、覆されたからこそこの結果があると言った方が良いかも知れない。

 そして、そんな恐怖を代弁するかの様に、クィクィはその陽気な口を開く。稚く可愛らしい彼女の態度振る舞いは、この世の穢れを知らない純朴であどけない少女のそれであり、とてもこの世に生きる凡ゆるヒトの子の死を司る神の子とは思えない。


「あれ、如何したの? まさか、格下のボクの魔拘鎖すら抜け出せないの? 早くしないと、あの子達はもう準備出来てるよ?」


 チラリ、とクィクィが見つめる視線の先。そこに待ち構えていたのはヴェネーノとワインボルト。何方も魂から魔力を無湧出させ、その身に纏わせている。其々の個体色である栗色と葡萄酒色と、それを覆う様に展開される悪魔を悪魔足らしめる黄昏色の輝きは、それを知覚出来る全ての者の魂を鋭利い刺激する。

 或いは、ヒトの子の様にそれを知覚出来無い者であろうとも、若しこの場に存在していたら、同じ様に影響を被っていた事だろう。幸いにしてこの戦闘規模という事もあり、そういう者は何処にもいなかったのだが。


「これだけ御膳立てしてあげたんだからさ、勿論一撃で仕留めてくれるよね? そうじゃ無かったら御仕置きだよ」

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