表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
492/511

第492話:攻勢

「あぁ」


「分かったよ」


 二柱は、其々言葉を返す。元より戦う覚悟は出来ていた。それが、ほんの少しばかり緩くなっただけ。寧ろ、気楽になったという事だ。ともなれば、何も怖気付く必要は無い。堂々と、大船に乗って大洋に乗り出した積もりでいれば良いだけの事だった。

 クィクィを始点に、計三柱の悪魔が、智天使級天使ラムエルに対して改めて身体を向ける。魔力を魂から産生し、全身に纏わせ、殺伐とした意志と敵意を隠す事無く曝け出す。

 天使と悪魔の対立。それは、人間が住まう領域である此処地界では本来存在しえない事。故に、それが生じる事など、初めから想定されていない。その為、その衝撃は、地界以外の環境で生じた場合以上の影響を及ぼす事となる。

 空が、地面が、水面が、自然世界のありと凡ゆる部分が連続的に激震し、その影響を視覚的に表現する。それ処か、寧ろ、空間そのものがビリビリと音を立てているかの様な、そんな感覚だった。

 そんな事などまるで気にする素振りも無く、彼彼女ら神の子は、依然として向かい合う。一応は管理者という立場ではあるものの、抑としてこの領域に住まう存在ではないのだ。本能的にそれらを気にする事が出来ずとも何ら不思議では無いだろう。


「それじゃあ、始めよっか」


 クィクィは笑う。その稚く可愛らしい見た目に相応しい笑みは、彼女をより一層の華やかさへと押し上げるもの。とても、戦いの最中に挙げられた笑顔でも無ければ、戦いの開始を告げる狼煙としての笑顔でも無い、そんな平和的な色香をそれは多分に含んでいた。

 しかし、だからといって、それに出鼻を挫かれる様な者はこの場にはいなかった。彼女の言葉を皮切りに、ラムエルもヴェネーノもワインボルトも、そしてクィクィ自身も、自身に求められている最適な行動を選択する。

 天使と悪魔、相反するに種族の神の子は、再度激突する。それも、先程迄のやや迫力に欠けた小競り合いでは無く、それこそ天地を揺るがす大激突。場合によってはこの地界という領域そのものが音を立てて崩壊するのではないか、とすら思わせてくれる程。

 凄まじい突風が吹き荒び、天使を天使足らしめる聖力と悪魔を悪魔足らしめる魔力が嵐となって疾走する。肉眼では捉える事が出来ず、肌で触れ感じる事が出来無い概念的力であるにも関わらず、それは思わず目を塞いで身を固めて防御姿勢を取ってしまいたくなる恐怖を内包していた。

 だが、ヴェネーノ及びワインボルトのそんな行動乃至思考など気に留める事無く、ラムエルとクィクィはその戦いを一層加速させていく。

 一方は勝つ為に、もう一方は攻撃の為の好機を作り出す為に。只でさえ階級及びそれに連続する実力に差がある上に、その目的意識迄もがまるで異なる両者。普通に考えれば、真面な戦いになる筈も無い。強い方が勝つし、勝利に積極的な方が勝つ。それが常識的思考回路。

 だが、それにも関わらず、両者が織り成す戦いは一定以上の平行線を辿っていた。何方かが秀でている訳でも無ければ、何方かが優れている訳でも無い。完全なる互角がそれを構築していた。


「中々やるわね」


「そっちこそ。伊達にボクより長く生きてるだけの事はあるみたいだね」


 鍔迫り合い、押せども引けども変わらない衝突の最中にあって、彼女らは言葉を交わす。一方は幻影聖法による巨体。他方は生身。まるで異なる体格差の中で、それはまるで対等な関係性を構築している様だった。

 でも、とクィクィは逆説的な語句を表出する。口元に零れる笑みや魂から零れる魔力の揺らぎ方からするに、何かしらの企みが内包されているのだろう。良く言えば挑発的な、悪く言えばあからさま過ぎる、すんな相好を曝け出しつつ、彼女はラムエルの魂を舐める様に刺激する。


「何時迄も遊んでばかりじゃいられないし、悪いけど直ぐに終わらせちゃうよ」


 ゴメンね、と舌を出して笑うクィクィは、その言葉通り一転して積極的攻勢に出る。それこそ、別人になったのではないか、とすら思わせてくれる程の劇的な変化。

 だが、同時に、彼女を知る者からすれば然程の違和感すら感じ去られない程に自然なもの。というのも、彼女のこうした劇的な変化は、戦闘に於いてはよくある事。神龍大戦時も幾度と無く見てきたものであり、寧ろこれこそ彼女が本気を出した瞬間だとも言える。

 故に、その変化を目の当たりにしても、ラムエルの動揺は非常に小さい。それ処か、そんな動揺など生じなかったかの様な態度振る舞いであり、彼女はクィクィの行動に対して完璧に反応してのけた。寧ろ、味方である筈のヴェネーノ及びワインボルトの方が対応に一拍出遅れてしまっていた程だった。


「クッ……」


 しかし、反応出来たからと言って対応出来るか如何かは別問題。実力の問題だってあるし、相性の問題だってあるし、精神的な問題だってある。理論上そうだからと言って必ずしもそうなる事は限らないのが現実である。それは幾ら彼女らが超常の存在である神の子だろうとも変わらない。思考がそこに関与する以上、普遍的な一定の解というのは先ず存在しえないと考えるべきだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ