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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第486話:取り決め

「何言ってるの? ボクがそんな優しい事する訳無いじゃん。ボクがするのはあくまでもお手伝いだけ。アルピナお姉ちゃんから此処を任されたのは君達でしょ?」


 あっけらかんとした態度振る舞いで以て、クィクィは淡々と告げる。感情がこもっていない様で、しかしその見た目通りな愛嬌がしっかりと込められたそれは、一切の悪意も存在していなければ見捨てる積もりも無い。目的意識とそれを遂行する為の手段を明確に認識出来ているからこその眼差しだった。

 だからこそ、ヴェネーノとしてもワインボルトとしても、クィクィの発言に対して頭ごなしに拒絶の姿勢を向ける事は出来無い。勿論、ラムエルの戦闘は現在進行形で継続中であり、それに手を取られているが故に会話が御座なりになっているのも否定出来無いが、それを考慮してもなんと返答すれば良いか咄嗟に出てこなかった。


「確かにアルピナからは此処を任されたけど……誰の手も借りるな、とは言われてないし……」


「確かに、アルピナお姉ちゃんならそういうだろうね、優しいから。でも、これからの事を考えたら、二柱も少しは叩けるようになってないと困るんだよ。だからさ、絶対に死なない様に守るって約束するから、少しくらい張り切ってくれる? それとも、ボクの手を借りないと何も出来無い様な新生児の儘だったっけ?」


 如何なの?、と首を傾げて問い掛けるクィクィ。緋黄色の瞳が燦然と輝き、同色の髪がふわりと揺れる。如何見ても子供の様にしか見えない小柄で細い体躯からは想像出来無い様な凄みが止めど無く流出しており、決して異論は認めない、という意思が暗に示されている。

 彼女の魂から湧出する魔力が、彼女の身体を包み込む。ラムエルの様に幻影を身に纏っている訳では無いにも関わらず、不思議と彼女の姿が大きく見える。只でさえ圧倒的な上位階級であり生まれた頃から色々とお世話になっている事もあって彼女に対して中々如何して頭が上がらないヴェネーノとワインボルトだが、今回もまた何時もと変わらない。それ処か、何時も以上に心身を萎縮させ、彼女にその全てを言い包められるかの様に丸め込まれる。

 ヴェネーノとワインボルトは互いに目を見合わせる。ラムエルとの攻防を繰り広げつつ、思考の糸を絡ませ合って互いの言い分を認識し合う。態々精神感応を繋がなくても、長い付き合いなのだ。互いの言いたい事は大体分かっていた。

 如何やら、互いの思っている事は大体同じらしい。いや、大体ではなく殆ど全く同じと言って過言では無い様だ。少なくとも、明確な差異は認められず、この状況に対して知らず知らずの内に同じ思いを雪の様に積もらせていた。


「「はいはい分かったよ。俺達で戦えばいいんだろ! まったく、アルピナといいクィクィといい、悪魔のクセに天使みたいにヒト使いが荒いなッ!」」


 無意識の内に降り積もっていた怒りを発散する様に叫びつつ、二柱は果敢に無謀に積極的にラムエルへ突撃する。クィクィをして驚かずにはいられない彼らの行動は、その実力に見合っただけの姿であり、決して消極性な心が残っていない事だけは明らかだった。


「へぇ、やれば出来るじゃん。だったら、ボクに言われる迄も無く初めからやってよね」


 それにしても、とクィクィは心中で溜息を零す。折角の称賛を掻き消す様に、その心にはモヤモヤとした複雑な感情が渦巻いており、余り良い気分ではなかった。


 天使みたい……かぁ。アルピナお姉ちゃんはまぁ仕方無いだろうけど、ボクをあんなのと一緒にしないで欲しいなぁ。


 クィクィは天使嫌いとして有名。それこそ、アレルギー体質でも持っているかの様に毛嫌いしており、こうして同一視される事を何よりも嫌がる。

 それは、第一次神龍大戦勃発直前以来の事。つまり、天使-悪魔間に於ける対立の直接的要因となったとある事件が切っ掛けであり、それを知っている者から見れば仕方無いと同情出来るもの。

 だからこそ、先程のヴェネーノとワインボルトの発言には少々思う所があった。一応、彼我の間柄だし、何より折角沸き上がった戦闘に対する意欲を削がない為にも此処で文句を言う事は避けるが、それでも到底無視する事は出来無かった。

 後で御説教しなきゃダメだね、と決めつつ、クィクィはゆっくりと地上に降りる。天使と同一扱いしたバツとして手助けしてやらまいかとも考えたが、しかし流石にそれは酷だろう。何があっても死なせない、と一度明言した手前、何も言わずにそれを捻じ曲げるのは、契約による相互関係を主とする悪魔の道理に反する非道な行い。

 だからこそ、少々癪だが、何時でも手助けが出来る態勢を維持しつつ、クィクィは地上から彼らの戦いを見守る。それっぽい岩場に腰掛け、魔力を手掌に為、魔剣でも魔拳でも魔弾でも魔法でも、何時でも何でも放てる態勢を維持しつつ、一観客として天使と悪魔の戦いを純粋な瞳で鑑賞するのだった。


 さて、君達の頑張り、見せて貰おうかな。期待しているんだから、今後の為にも、精々ボクの手を煩わせないで終わらせてよね。

次回、第487話は3/20公開予定です。

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