第484話:ラムエル vs クィクィ
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その儘、ラムエルとクィクィは、激しい戦いを繰り広げる。衝撃と轟音が天を覆い、地を割き、とてもこの世のものとは思えない光景がその場には広がる。尤も、何方もこの星の住民ではない為、こうなるのも当たり前といえばそうでしかないのだが。
兎も角、ラムエルもクィクィも、少なくとも周囲からの視線などはまるで気にも留めていない様子。状況を踏まえても誰かしら見られては困る人に見られている訳でも無ければ抑として最早隠す必要すらないのだから、それが悪いとは言えない。それこそ、地上に降りて身体を休めているヴェネーノとワインボルトとしても、彼女らの戦いに対して何かしら文句を言おうとは思わなかった。
寧ろ、それ処か、余りにも隔絶された力の差を改めて実感する事で、何も言う事が出来無かった。一応、神龍大戦時に嫌という程にこんな光景を幾度と無く目撃してきたし巻き込まれてきた筈なのだが、それでもやはり慣れないものは慣れなかった。
やはり桁外れだな、あの世代は……。
ワインボルトは、心中で呟く。あの世代、と限定的な呼称で称賛したものの、実際の所としてはクィクィを始めとする古い世代全般に言える事。ワインボルトより年上なのだから当然と言えば当然なのだが、第一次神龍大戦以前に生を受けた世代というのは、開戦以降に生まれた者と異なり何処か隔絶された力の差を保有している様に感じられる。
加えて、ラムエルもクィクィも未だ嘗て肉体的死を経験していない。つまり、死と復活に伴う弱体化を受けていないという事であり、言い換えれば実年齢相応の力そのものという事。
だからこそ、幾らワインボルトもまた同様に死と復活のサイクルを経験していないとはいえ、より一層の畏怖を抱いてしまうのかも知れない。
『ねぇねぇ、二柱とも?』
そんな折、ヴェネーノとワインボルトの脳裏に声が響く。それは、他でも無いクィクィの声色と口調であり、彼女がラムエルとの戦闘中でありつつも並行して彼らに精神感応を繋げてきている事の証左だった。
現在、此処を含む周囲一帯、正確に言えばこの敷地内全域に於いて、強力な聖力の障壁が張り巡らされている。宛ら天界を彷彿とされる肌感覚であり、天使と対の存在であり魔界を主な生息域とする悪魔にとっては余り良い気分ではない空間。
それにより、ヴェネーノやワインボルトは疎か、彼らより上位であるクィクィ、全悪魔で最も位階が高いアルピナは元より、全悪魔の中で最も魔力のコントロールに秀でているスクーデリアですら、真面な魔力コントロールや魔眼の制御が利かない状態である。
それにより、本来であれば精神感応も不安定になりがちであり、更に言えば繋がらなくても何ら不思議ではない。実際、こうしてバラバラに行動しているものの、普段の様な意思疎通が採れない事もあって何かと不便を強いられている。
故に、こうして精神感応で語り掛けられるとは思ってもおらず、ヴェネーノもワインボルトも瞬間的に動揺する。憖、クィクィは武力優位であり魔法の類は同世代と比較してかなり不得手である。それこそ、一部の魔法に関してはクオンと大差無いレベルに拙劣であり、力によるゴリ押しで解決する事も屡々である。
『あ、あぁ、クィクィか?』
それでも、如何にかこうにか理性で精神的動揺を無理矢理理性宥めて、ワインボルトが代表してクィクィに返答する。此方からクィクィに精神感応を繋ぐのは難しいが、彼方から繋いでくれている分には問題無い。彼女が構築した回路に乗じて折り返すだけで十分だった。
だが、それでも、ワインボルトの声色口調は何処か恐怖に包まれている。やや緊張しいとでも言った方が良いだろうか? 勿論、死闘の最中なのだから変にリラックスしている方が却って気味悪いとは思うが、しかしとても仲間と精神感応を繋いでいるとは思えない程に強張っていた。
それもその筈であり、ワインボルトにはクィクィが言おうとしている事がそれと無く朧気に理解出来てしまったのだ。というか、クィクィの声色口調が何処か不機嫌気味であり、とても平穏無事とは言いが高いものだった。
勿論、感情由来の奔放で喜怒哀楽の差が激しい性格をしているのがクィクィであり、事ある毎に様々な感情を浮かべているのはワインボルトとしても知悉している。その為、些細な事で彼女が不機嫌になるのは行ってしまえば何時もの事であり、特別不思議な事でも無ければ不快な事でも無い。ただ、今回に関しては、当事者がラムエルか自分達の二者択一であるが故に、自分達にその原因がありその矛先が此方に向けられている可能性が極めて高い事から、つい身構えてしまうのだった。
そして、彼がそんな予測を立てているという事は、当然の事乍らクィクィにはバレてしまう。抑として神の子は読心術を有しており、実力差次第では閉心術でも防ぎ切れない事も多いため、それ自体は別に不思議ではない。況してやクィクィの方が圧倒的に上なのだから、それは当然の事。
だが、そんな事はクィクィにとっては如何でも良い。それ以上に、どうしても言っておきたい事があった。それこそ、上位階級として下位階級を一時的にも統率する立場にあるからこその不平不満であり、彼女としては不本意な事でもあったのだ。
次回、第485話は3/18公開予定です。




